茨城大学は、鋼板をプレスして周辺部だけを厚くする技術を開発した。予備加工で縁を斜めに立ち上げ、それをつぶしていく。部品のそれぞれの部分が受ける力を考えながら設計すると、多くの場合周辺部が厚く、中央が薄くなる。その形を安価なプレス工程だけで造れるから、用途の広い技術に育つ可能性がある。

 普通の歯車を見ると、歯の部分は厚みがあり、軸受、またはボスの入る中心側も厚みがある。両者の中間、円板の部分は薄くなっている。プーリなどでも同じである。
 この形は理にかなっている。歯車の例で言えば、外径側の厚さは歯面の強さなどで決まり、内径側の厚さは軸受やボスの負担荷重で決まるから、ある程度の厚さが必要になる。これに対して、円板部は伝達トルク、振動問題などで決まり、要求される肉厚はずっと薄い。メリハリのある形が最適設計ということになる。歯車のような円板状の部品に限らない。構造材として使う板材の多くは、形状にかかわらず、縁を中心部よりも厚くしたいことが多いはずだ。
 以前は素材を鋳造、鍛造などの方法で造っていたから、メリハリのある形にすることは容易だった。ところがコストダウンの要求が強まるにつれ、多くの部品を、圧延した板材をプレスして造ろうという動きが進んできた。鍛造や鋳造よりエネルギ消費量が少なくて済む。素材は機械的特性、化学成分、板厚が安定しているし、プレス加工は比較的小さな加工荷重で精度、生産性の高い加工ができるためだ。
 その代わり、プレスは素材の厚さが均一だから、メリハリのある形にはしにくい。基本的に板を引っ張って成形するため、肉は素材よりも薄くなる。絞り加工でシワ押さえに挟まれた部分が例外的に厚くなるくらいである。必要な場所を厚くしようとすれば、別部材を溶接する、厚く作っておいて不要な部分を機械加工で取り去るなど、複雑な後工程が必要になってしまう。溶接を使うテーラードブランクという技術もあるが、縁を数mmだけ厚くするという使い方には向かない。
 我々は、鋼板を素材とし、プレスだけを使って必要な場所を厚くする“増肉”技術の研究に取り組んでいる。

以下、『日経Automotive Technology』2012年11月号に掲載