研究者の視点
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC) 上席研究員 伊原 賢氏
1983年東京大学工学部卒。1994年東京大学工学博士号取得、石油学会奨励賞。アラブ首長国連邦ザクム油田操業、JOGMECヒューストン事務所長ほかを歴任。著書に『シェールガス革命とは何か』(東洋経済新報社)など。

 日本ではあまり報じられていないが、米国ではいま、クルマの燃料の天然ガスへのシフトが急速に進んでいる。その理由は大きく二つある。一つは、天然ガス自動車(NGV)のほうが、燃料コストがかなり安く済むことだ。米国では、シェールガスが大量に、安定的に採掘されるようになった、いわゆる「シェールガス革命」により、天然ガス価格が大きく低下したことが背景にある。
 2006年時点では単位熱量当たりの原油と天然ガスの価格はほぼ等しかったが、2011年には単位熱量当たりで、天然ガスの価格は原油の1/5に下がった。このため、NGVで同じ距離を走るのにかかる燃料コストは、2006年時点ではガソリン車とほぼ等しかったのが、2011年9月時点では、小型車(対ガソリン車)で約30 %、トラック(対ディーゼル車)だと約50%も低くなった。
 2011年4月に、米国連邦議会にNGV普及推進法(NAT GAS ACT of 2011)が提出された。この法案は都市内および長距離輸送のディーゼルトラックのNGVへの代替推進を主目的にしているが、乗用車や家庭用充てん設備に対する優遇策も盛り込まれている。オバマ大統領は、この年の3月末に国内での燃料の増産、天然ガスやバイオ燃料の使用拡大および自動車の燃費改善により、2025年までに石油輸入量の1/3を削減するという計画(BLUE PRINTFOR A SECURE ENERGY FUTURE)を発表しており、このときの演説でも、推進法案への支持を表明している。

以下、『日経Automotive Technology』2012年11月号に掲載