急速充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」の世界標準化をもくろんだ日本勢の取り組みは、欧米勢に阻まれて失敗に終わった。その余韻が冷めやらぬ中、今度は次世代の「ワイヤレス給電」技術の標準仕様を巡り、各社が動き始めた。技術的には実用化目前。だが複数の仕組みがある上に優劣を付けにくい。しかも特許の問題をはらむ。一筋縄に決まりそうにない。

 電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の電池に給電装置から非接触で充電する「ワイヤレス給電」技術(図)。研究段階を終えて実用化の時期が近づいてきた一方で、各社が同技術の国際標準を巡って駆け引きを繰り広げる。
 2012年4月、ワイヤレス給電技術の関係者の間に驚きが広がった。日産自動車が、「2年以内」に発売するEVに同技術を採用する方針を明らかにしたからだ。
 関係者が衝撃を受けた理由は大きく二つある。一つは、実用化の時期が想定より早かったこと。関係者の多くが「早くて2015年」と考えていた。日産の方針は、関係者の見立てから1年以上も前倒しするものである。
 もう一つは、ワイヤレス給電技術の国際標準化に向けた取り組みが本格化した矢先の発表だったことだ。標準化作業の日程と日産の計画がかい離しており、同社が標準化の取り組みに背を向けているかのように映る。
 同技術に関する標準化活動の主な舞台は、国際電気標準会議(IEC)/国際標準化機構(ISO)と米自動車技術会(SAE)。作業は2011年から始まっているが、「本格化したのは2012年以降」(標準化活動に関わる横井行雄氏)である。3団体に日本自動車研究所(JARI)が関わりながら進んでおり、現時点で「2014年末~2015年に作業を終えるのが目標」(同氏)だ。
 自動車に新しい技術を採用するには、開発期間として2~3年ほど必要である。2014年の実用化を目指す日産の計画を達成するには、標準化作業が終わるのを待っていては到底間に合わない。既に仕様の骨子を固めたとみるのが妥当だ。実際、日産は量産するときのサプライヤをパナソニックに絞り込んだもよう。車両に試作機を搭載した評価実験に着手し、計画の達成に向けて着々と歩んでいる。

以下、『日経Automotive Technology』2012年11月号に掲載
図 ワイヤレス給電技術
図 ワイヤレス給電技術
給電装置を地上側に、受電装置を車両側に置く。