2012年9月~2013年2月号では「労働災害を防ぐ安全技術」をお届けします。最先端の動向や国際規格に基づいたグローバルに通用する安全確保について、安全のスペシャリスト集団である安全技術応用研究会が解説します。安全管理者はもちろん、機械の設計者や生産技術者も必読です。

独立した機構でインタロックを確保

 前回は、国際的な動向として機械のメーカーに対して安全性の立証が求められてきていることを紹介した。続いて今回および次回は、実際の事故事例2件について国際的な安全確保の観点から分析する。まず今回は、作業者が製麺機のカッタで手の指を切断した事故を取り上げる。

事故の概要

 事故は、1988年7月5日に東京・中野の製麺工場で発生した。製麺機による製麺工程が終わり、作業者は麺を練るローラの清掃を開始した(図)。ローラを動かしたり止めたりするスイッチを右手で小刻みに操作しながら、ローラ付近にたまった麺を左手で取り除いていく。その作業中に麺を長さ方向に切るカッタが突然動き出し、作業者の左手の中指と薬指を切断してしまった。

 なぜ、カッタは作業者の意図に反して動いたのか。それを考察するに当たり、まず製麺機の駆動機構を見ておこう。カッタの駆動源であるモータの制御は、操作盤の電源入ボタンおよび電源切ボタンで行う。電源入ボタンを押すとモータが回転し、カッタと連結した摩擦クラッチに動力が伝わる。電源切ボタンを押すとモータが止まる。これとは別に摩擦クラッチの動作を制御するストッパがあり、摩擦クラッチの拘束/解放を電気的に制御できるようになっている。

〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

図●製麺機の外観と駆動機構
図●製麺機の外観と駆動機構
麺を練るためのローラを清掃していたところ、麺を切断するカッタによって手の指を切断した。

安全技術応用研究会
「安全は技術で構築すべき」という強い意思の下、産官学から安全技術のスペシャリストが終結し、1992年に創設された。安全技術のための基本的論理の研究、基本論理に適合した安全機器の開発、国際安全規格への働きかけなどにより、安全機器の標準化や生産現場への普及に努めてきた。出版/研究発表/講習会を通じた情報発信も積極的に行っている。現在は、約60社の会員企業で構成されている。