自社が保有する技術資産を棚卸しすれば、顧客の求める製品/サービスを効率的に市場に届けることができます。「徹底!保有技術の棚卸し」では、自社の保有技術をいかに見える化し、戦略的に技術ポートフォリオに落とし込んでいくかを解説していきます。

「市場の目」を手に入れよう

 日本の研究開発力は劣化しているのだろうか。筆者はそうは思わない。経営コンサルタントとして、これまでに多くの企業の研究開発の現場を拝見してきたが、特筆に値する技術が幾つも開発されていた。しかも、その技術は日々進化している。新興国の有力企業が、日本企業の技術資産を虎視眈々と狙うのも無理はない。

 とはいえ、日本企業の研究開発現場に足りないものもある。それはズバリ、自社の保有技術と市場を結び付ける力だと筆者は考えている。世の中に存在しない技術を新たに開発するだけが、研究開発の道ではない。既にある技術を上手に活用しながら、足りない部分を補っていく。こうすることで、効率的に新市場を切り開く製品やサービスを生み出せるのではないだろうか。

 市場といえばこれまでは、「顧客の顕在化したニーズ」を意味することが多かった。しかし、顧客の顕在ニーズに見合った物をただ造っていれば売れる時代は終わった。世の中のマクロトレンドを考慮した「顧客の潜在ニーズ」「関連技術の進化」「規制や促進施策のような社会制度」なども全て含めて市場と捉え、世の中に必要とされる物を「提案」する時代に突入したのである。

〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

井上潤吾(いのうえ・じゅんご)
ボストン コンサルティング グループ
ボストン コンサルティング グループ(BCG)シニア・パートナー&マネージング・ディレクター。東京大学工学部を卒業し、同大学工学系研究科修了。米ペンシルベニア大学経営学修士(MBA)。日本電信電話、BCGアムステルダムオフィスを経て現職。専門分野はハイテク、通信、金融、電力、新規事業、提携、研究開発、ポートフォリオ・マネジメント、営業改革、IT戦略。著書に『守りつつ攻める企業』(東洋経済新報社)など。