「熟練者のノウハウを引き出す対話術」は、ベテラン技術者が持つ「知恵」を引き出し、体系的に整理して共有可能にするまでの方法論を解説するコラムです。インクスが業務変革のソリューション事業で経験したことを踏まえて解説します。

 豊富な知識を持っていることに加え、初めて遭遇する事態にも状況に即してその知識を応用し、的確に判断して問題を解決していく。そのような知恵のある人が、日本の設計・製造の現場にはいる。

 例えば、図1のような工作機械があった。治具の上部に切粉がたまり、段取り換え時などに落下してくるため、加工精度に悪影響を及ぼしていた。切粉が蓄積しないように、エアを吹き付ける機構などを検討したが、コストの面で問題があり、なかなか決め手にならなかった。

 この問題に対して、ある技術者が出した解決策が図2である。積もった切粉を排除するというよりも、傾斜を付けて積もらせないようにする発想だ。この技術者は、切粉の問題をこのように解決する方法を知っていたわけではない。それでも、初めて見る課題に対して知恵を働かせ、見事な解決策を見いだした。

〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

図1●切粉がたまる加工機(改良前)
図1●切粉がたまる加工機(改良前)
予期しないタイミングで切粉が落下してくることが、加工精度上問題になっていた。切粉を排除する機構を考えようとしていたが、コストが掛かるなどの問題があった。
図2●改良後の加工機の状態
図2●改良後の加工機の状態
切粉を排除するのではなく、そもそもためないようにするというシンプルな解決策。技術者は、加工機に関してこのような知識をあらかじめ持っていたわけではなく、「知恵」によって解決策を得た。

小林紀知(こばやし・のりとも)
インクス 事業企画室 ウィズダム・エンジニアリング・リーダー
インクス 事業企画室/ウィズダム・エンジニアリング・リーダー。2002 年インクス入社。ソリューション事業部にて多様な業界の業務変革プロジェクトを手掛けたのち、変革手法を体系化して「ウィズダム・エンジニアリング」へとまとめた。価値創造へと向かう知識と知恵のあり方、組織ダイナミクスについて探究している。