雑誌 2012年10月号 特集

国内で造る

シリーズ特集:製造の最適解を探せ【第1回】

2012/09/25 10:35
 
日本で生産すべきものは何なのか、もうものづくりは海外に移管した方がよいのではないか──。この難問が今、多くの日本メーカーを悩ませている。1980年代の後半以降、国内工場は人件費の高さや円高などの高コスト要因にさらされてきた。2000年以降は新興国の台頭に加え、EMS(電子機器の受託生産サービス)やODM(相手先ブランドによる設計・生産)など、スケールメリットを最大限に生かした新たな業態が登場し、その高いコスト競争力で国内工場から仕事を奪ってきた。だが、全てを海外で造ればいいとは言い切れないはず。持続的成長へ向けたベストの方法を望む声が上がる。国内の役割は何か、海外には何を任せるべきか。その最適解を2号連続特集で追う。

円高、高い人件費や法人税、電力不足…。日本企業が「6重苦」にあえいでいる。もう日本を捨てて、海外に出るしかないという論調が目立つ。しかし、よく見ると国内に生産を戻す、国内に新工場を建設する、といった動きも少なくない。日本で造るメーカーが追求するのは、これまでにも増して高い付加価値と、スピード(納期の短さ)だ。多くの工業製品において海外でも品質の良いものができるようになった今日でも、どこでも造れる製品には納得しない顧客が存在する。そんな日本製品の価値を明確に認識している顧客に応える最善策が、「Made in Japan」である。(近岡 裕、木崎健太郎)

最適解;QCDを超える

海外では実現不可能な
別格の「価値」と「スピード」を狙う

 増強に次ぐ増強を繰り返している国内工場がある。ブリヂストンの北九州工場だ。2012年下期からの2回目の増強に引き続き、3回目の増強を決定。建設・鉱山車両用の大型タイヤを全世界に輸出する。

 オークマも本社工場を再開発し、生産能力を増強した新しい建屋を2013年4月に稼働させる。リョービは金型製造の新工場を建設、同じく2013年4月の稼働を目指す。

 低価格化の進行が著しいとされるパソコンでも、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が中国で生産していた国内向けノート型パソコンを、2011年8月から昭島事業所(東京都昭島市)での生産に切り替えた。生産したパソコンには「MADE IN TOKYO」のステッカーが輝く。

 これらのメーカーは、なぜ国内で造るのだろうか。円高をはじめとする「6重苦」で、国内での生産は無理なはずではなかったか。特に、「組み合わせ型」製品の典型といわれるパソコンは、海外生産が常識ではなかったのか──。
〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

分析:パソコンメーカーの国内回帰

ユーザーの広く深いニーズと
超短納期の要求に応える

 高付加価値とスピード─。この「V」と「S」を多くのパソコン・メーカーが国内で実現している(図1)。

 高付加価値を国内で追求するメーカーの代表例がソニーと富士通だ。ソニーは主に個人向け、富士通は主に法人向けを得意とし、両社とも「自社でなければ提供できない価値」を重視している。その原動力になるのが、国内の生産現場であり、設計部門との密接な協力だ。

 一方、スピードを追求するメーカーの代表例が、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)とNECグループである。国内工場の強さに磨きをかけて、多様な仕様を造り分けると同時に、さらなる短納期を目指している。
〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

図1●高付加価値(V)とスピード(S)を追求する国内メーカー
図1●高付加価値(V)とスピード(S)を追求する国内メーカー
標準的で低価格の製品以上のものを求めるユーザーをターゲットに、国内で生産。

事例:タイヤ・ブリヂストン

競合少なく高額で世界に売れる
雌伏の10年で培った技術が実る

 輸出比率が100%──。つまり全量を日本で造り、しかも世界中の顧客に飛ぶように売れる製品がある。建設・鉱山車両に搭載する超大型タイヤだ(図2)。露天掘りで地下資源を採掘する現場にいる顧客などに向けて、日本の港から輸送するのである。

 手掛けるのは、ブリヂストンの北九州と下関の両工場。中でも、勢いを見せるのが北九州工場だ。同社が33年ぶりに国内に造った工場で、2009年に操業を開始した。世界的に活発な地下資源開発の追い風を受け、操業開始後に1度増強を実施し、2度目の増強中に3度目も決定。当初は30t/日だった生産量は現在80t/日に増えている。これを2014年には165t/日と当初の5倍超にする計画だ。世界を襲ったリーマン・ショックとも無縁の増産を続けている。
〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

図2●世界最大級の超大型タイヤ
図2●世界最大級の超大型タイヤ
ホイール径が63インチのタイプ。直径は4mで質量は5tもある。ブリヂストンが国内工場で生産して全量を輸出している。北九州工場ではホイール径が49~63インチの超大型タイヤを生産する。

事例:金型・リョービ

ノウハウの海外流出を防ぎつつ
難加工品の金型生産を自動化

 2012年7月、リョービは約26億円を投じて金型工場を広島県府中市に新設すると発表した。生産するのは、型締め力が2000tf(19.6MN)のダイカストマシンに搭載する、大物ダイカスト品向けの金型だ。具体的には、自動車のトランスミッション・ケースやシリンダブロック、ブラケット類など向けである。2013年4月に新工場が稼働すれば、同社の金型の生産能力は200型/年と、現在の約2倍に増える。

 同社が金型の生産能力を増やすのは、特に新興国市場で旺盛な自動車生産の需要に応えるためだ。同市場では日系をはじめ多くの外資系自動車メーカー、さらには現地の自動車メーカーも自動車の生産量を増やしている。

 そんな自動車メーカーは一様に、部品の現地調達率を引き上げようと躍起になっている。少しでもコストを下げたいからだ。こうした顧客の声に従い、金型工場を新興国に建設するという考え方もあるだろう。リョービがそれを避けたのは、「金型のノウハウを社外に出さないため」(同社ダイカスト本部広島工場長の陶守修氏)である。
〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

事例:工作機械・オークマ

最上位機種は海外には頼れない
部品からの一貫生産で独自価値

 オークマは2012年8月、本社工場(愛知県・大口町)の再開発工事に着手した。第1期工事を2013年4月に終え、中・大型の工作機械を部品から一貫生産する工場を稼働させる。これにより生産性は従来の1.7倍に向上する。

 新工場で造るのは、同社が「プレミアム・プロダクト」と呼ぶ、マシニングセンタや複合加工機などの最上位機種。内製している制御装置と一体で、工具のびびりを自動的に抑制したり、手動運転でもワークと機械の衝突を防止したり、熱変位による影響を抑制したりするなどの機能を持つ。「オークマならではの製品として顧客から一定の評価を受けている」(同社常務取締役製造本部本部長の竹原幸治氏)。

 このような、高付加価値の機種を安定した品質で海外で造るのは極めて難しいことであり、日本国内で造らざるを得ない、というのが同社の考えだ(図3)。
〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

図3●国内工場では高付加価値品を生産
図3●国内工場では高付加価値品を生産
「プレミアム・プロダクト」と呼ぶ最上位機種を国内で生産。海外では中位機種「プレミアム・エコ」を造る。

事例:工作機械・スギノマシン

コピー商品による消耗戦を回避
アナログ領域をコア技術として磨く

 マシニングセンタ(MC)やバリ取り洗浄機といった工作機械を手掛けるスギノマシン(本社富山県魚津市)にとって、国内生産を続ける理由は明白だ「。市場の消滅を防ぐため(」同社執行役員精密機器事業部長の押田淳氏)である(図4)。

 金額ベースの輸出割合が約40%と比較的多い同社にとって、足元の円高は厳しい。この影響から逃れるべく、人件費の安い新興国に工場を建設して主力製品を造るという方法が、日本メーカーの中で「常識」となりつつある。スギノマシンも廉価な汎用ドリルユニットを中国で生産する。だが、少なくとも現時点において、同社が主力製品を「海外で生産する考えはない」(同氏)。理由はこうだ。

 新興国に工場を造れば、何らかの形で技術が外部に漏れていく。これが現地の競合企業を育成することになり、そのうち模倣(コピー)製品が市場にまん延する。すると、想定外の価格下落が始まり、やがて日本メーカーは太刀打ちできない低コストを強いられる時がやってくる。行き着く先は市場からの撤退だ──。
〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

図4●MCの生産ライン
図4●MCの生産ライン
富山県の滑川事業所に設けた。国内工場がコア技術として持つフレーム構造技術などを基に、コンパクトでありながら高出力のMCを造る。

事例:樹脂成形磁石・マグエックス

国内協力会社のネットワークが宝
ものをいう基本技術の積み上げ

 プラスチック・マグネットは、樹脂で磁性粉を固めて造った磁石。これをシート状にしたものが、例えば自動車運転者の初心者マークなどで使われる(図5)。マグエックス(本社東京)は、このプラスチック・マグネットの技術開発を1965年以来手掛けている。

 海外市場の広がりを受けて、2001年にマグエックスベトナム(工場)、2003年にマグエックスアメリカ(販売・物流拠点)、2004 年にマグエックス上海加工センター(生産・物流拠点)をそれぞれ設立し、海外進出を果たしてきた。特に生産拠点については、海外の方が人件費を含めたコスト面で有利なためだ。しかし、「だからといって国内生産をやめるつもりは全くない」と、同社取締役社長の阿部城士氏は言い切る。
〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

図5●押し出し成形によるマグネットシートと、射出成形品
図5●押し出し成形によるマグネットシートと、射出成形品
樹脂と磁性粉(鉄粉)を混ぜて成形する。磁力を強めるには磁性粉を多くすればよいが、多すぎると成形できなくなる、という二律背反関係のバランスを追求する必要がある。(a)がシートに印刷した製品、(b)が射出成形品でステッピングモータの回転子などに使う。

事例:自動車・トヨタ自動車

革新的な生産技術を日本で生み
安く造って超円高に勝つ

 国内工場では難しいといわれるC(コスト)で真っ向から勝負する日本メーカーもある。トヨタ自動車だ。

 「円高に負ければ先はない。日本発のものづくり革新で画期的なコスト削減を実現する」。同社の国内生産のカギは、同社取締役副社長の新美篤志氏のこの簡潔な言葉に表れている。ものづくり革新でコスト競争力の高い生産技術を生み出し、日本であっても安く造る。それにより、円高の影響を吸収して年間300万台のクルマの国内生産を死守するのだ。

 そうした画期的な生産技術は、技術力の高い部品や材料、設備メーカーといったサプライヤーが集積し、優れたノウハウと高度な技術や技能を備えた人材の宝庫である日本だからこそ生まれる。つまり、日本は新技術が生まれる「畑」であり、トヨタ自動車の製品の競争力はここで実った技術で支えられている。国内生産を減らせばサプライヤーが疲弊し、畑がやせてしまう。それを防ぐために、トヨタ自動車は競合他社と比べて圧倒的に多い国内生産にこだわるのである。

 ものづくり革新のベースは、トヨタ生産方式(TPS)の原点といわれる、ムダの徹底した排除だ。中でも、加工に関するムダに着目し、歩留まりを高めたり工程を削減したりすることで、できる限りコンパクトな生産ラインの構築を目指している。
〔以下、日経ものづくり2012年10月号に掲載〕

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