蓄電池/キャパシタ向けを中心に新しい炭素材料の量産が始まった。同材料を用いることで、蓄電池やキャパシタを安定にしたり、蓄電容量を大きく向上させたりする手法が現実味を増してきたからだ。そしてこれが、次世代の炭素材料の量産を促し、さらに高性能な蓄電池/キャパシタの開発につながるという、正のスパイラルが回り始めた。

HC材料は本格量産目前に

 活性炭やグラファイト(黒鉛)など従来から蓄電池やキャパシタに用いられている炭素材料に代わる、新しい炭素材料が本格的に量産され始めた。筒状のカーボン・ナノチューブ(CNT)や難黒鉛化性炭素(HC)などである。

 具体的には、多層CNTと呼ばれる、中口径から大口径のCNTの量産が2010年以降、本格化している。量産規模で世界をリードするのは大学発ベンチャーのベルギーNanocyl社で、2010年まで年産60トンだった生産量を2011年から同400トンと6倍強に増やした。これを猛追するのはフランスの石油大手Total社の子会社Arkema社。同社は2010年までの年産20トンから一気に20倍に増やした。他のメーカーもそれまでの数倍の量へと大規模増産を図っている。これまでのところ、多層CNTの用途は、繊維強化樹脂(FRP)向け添加剤や導電性ゴムなどが多い。具体的にはそうしたFRPはテニス・ラケットのフレームやボートのコート剤、スピーカーの振動膜などに用いられている。しかしここに来て、大量消費が期待できる用途の開拓が進んだ。例えば、昭和電工のようにLiイオン2次電池(LIB)の負極向け添加剤向けに出荷する例が増え始めた。

日本メーカーが先行する例も

 HCの生産も大幅に増えている。クレハや住友ベークライトといった日本の化学メーカーが、2010年時点では年産数十トン以下だったLIBの負極材料向けHCの生産規模を、2012年になって同数百トン~1000トン超に引き上げた。

 中でもクレハは、2012年は年産1200トンという大きな生産規模で、石油ピッチを原料としたHC製品「カーボトロンP」を量産中だ。出荷先の一つが、車載向けLIBメーカーの米EnerDel社であることも明らかにしている。これとは別に、クレハはクラレと共同で植物由来のHCを2013年に年産1000トンの規模でLIBの負極向けに生産することも2011年12月に発表した。

『日経エレクトロニクス』2012年9月3日号より一部掲載

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