安全を科学的に捉える
日本では、生産現場での安全確保がそこで働く人に大きく委ねられている。安全技術応用研究会ではそうした状況に危機感を抱き、国際規格の流れを先取りしつつ実践的な安全構築手法を解説する書籍『安全システム構築総覧』を2001年に上梓した。それから10年以上がたったものの、我が国ではいまだ多くの事故が起きている。
現代の生産技術は機械化・複雑化が進み、生産活動に潜む危険は増え続けている。一方、人の注意力には限界がある。加えて、機械は必ず故障する。人の力よりもはるかに強い機械による災害を、人の注意力や教育だけで防ぐのは不可能だ。そのため、人を危害から防護する方策を機械の設計段階で取り入れることが国際的に重視されている。
そこで本連載では、同書の増補改訂版(2012年発行)に基づいて、国際規格に沿った安全構築手法を解説する。今回は、安全確保に関する考え方の国際的な動向を紹介する。
工業標準や規制は統一へ
安全確保の国際的な動向を紹介する上で、WTO/TBT協定(World Trade Organization / Agreementon Technical Barriers to Trade:貿易の技術的障害に関する協定)は避けて通れない。同協定は、人/物/金/情報/サービスが国の枠を超えて自由に流通することを目的に制定された。グローバル市場において製品などの規格や規格への適合性評価手続き(認証)の規制が行き過ぎたり、乱用されたりすると、貿易の障害になる。そこで、各国の制度が不必要に貿易障害とならないように、工業標準や安全・環境面の規制などを可能な限り国際的に統一・規格化することで、貿易に伴う措置や手続きの透明性を確保しているのだ。
加盟各国は同協定に基づいて、それぞれの国家規格(日本ではJISなど)をISO(国際標準化機構)およびIEC(国際電気標準会議)などの国際規格に原則として合わせることで合意している(図)。日本もこの原則に従わなければならない。
〔以下、日経ものづくり2012年9月号に掲載〕