ステップアップは、技術者や管理者が基礎力を養ったり新たな視点を導入したりするのに役立つコラムです。2012年10月号からは、企業内に散在するノウハウを再利用可能な形にする方法の解説「知恵を周囲から引き出す(仮題)」をお届けします。

 第1回(2012年7月号)は、行動観察と、人の視点を起点とした設計「Human-Centered Design」(HCD:人間中心設計)との密接な関わりについて取り上げました。そして第2回(同年8月号)では、行動観察を実施してから、その結果を設計案に落とし込むまでの7つのステップを具体例と共に解説しました。

 最終回である今回は、第2回で取り上げた一連のプロセスの方向性を決定付ける、7つのステップの前のプロセスに焦点を当てます。それは、HCDプロセスの立案。第2回までにお話しした内容を「いかにして始めるか」について、富士ゼロックスの事例を交えながら考えていきます。

既存商品にも活用できる

 行動観察やそれを用いたHCDと聞けば、とかく「新規事業や新規商品/サービスの企画開発に役立てるもの」と思われがちですが、実はそれだけではありません。既存商品やサービスのバージョンアップ、用途もまだ決まっていないシーズ技術の研究開発などにも適用することができます。

 皆さんが行動観察やHCDを仕事の中に取り入れる上で、「何に適用するか」は非常に重要。そのためここでは、富士ゼロックスで実践したプロジェクトの中から、主な4つの適用パターンをご紹介していくことにします(図)。

〔以下、日経ものづくり2012年9月号に掲載〕

図●富士ゼロックスが実践した行動観察適用の4パターン
図●富士ゼロックスが実践した行動観察適用の4パターン
行動観察とHuman-Centered Design(HCD)の考え方は、商品開発以外の分野にも活用できる。富士ゼロックスが実践した主な例を4つのパターンに分類した。

蓮池公威(はすいけ・きみたけ)
富士ゼロックス 商品開発本部
1994年、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科造形工学専攻を修了。富士ゼロックスでは、商品開発本部ヒューマンインターフェイスデザイン開発部でユーザー・インターフェイスのデザイン、ワークプレイス研究、Human-Centered Design手法の研究と実践などに取り組む。2008年からは社内技術講座で観察とインタビューの講師も担当。人間中心設計機構の評議員、武蔵野美術大学基礎デザイン学科の非常勤講師。