スピードを上げて果敢にチャレンジしよう――。2012年の年頭所感でこう述べた、クボタ会長兼社長の益本康男氏。2009年1月の社長就任以来、東南アジア市場の開拓、エンジンの海外生産、玄米の輸出など、自らが挑戦する姿勢を見せ続けてきた。その原点は、「世界一になりたい」という技術者魂にあった。

写真:谷山 實

 トラクタをはじめとする当社の農業機械は、タイで広く受け入れられています。社員が現地の農家を訪ねて直接ニーズを聞きながら造るといった設計の工夫以外にも、成功の要因が2つあります。

 1つは、タイでは工業化に伴い、働き手が農業から、より高収入を得られる工業へと流れている点。農家は人手不足になりますから、自ずと機械化が進みます。

 もう1つは、競合する現地メーカーが存在しなかった点です。それまで「歩いて耕す」耕運機を使っていた農家の人たちに「乗って耕す」トラクタを見せたら、ワーッと飛びついてきた。もし、現地にライバルメーカーがいたら、それほど簡単にはいかなかったでしょう。

 実は、インドがそうなんです。あそこにはMahindra & Mahindra社という強力な現地メーカーがあって、日本円で数十万円くらいの安いトラクタを売っています。しかし私からすれば、あれはトラクタじゃない。リヤカーのようなものを引っ張って、そこに人を乗せたりしている。初めて見た時には、人の運搬車か、と思ったほどです。しかし彼らはそれで畑も耕すし物も運ぶし、何でもしちゃう。
〔以下、日経ものづくり2012年9月号に掲載〕(聞き手は本誌編集長 荻原博之)

益本 康男(ますもと・やすお)
クボタ 会長 兼 社長
1947年4月生まれ。1971年3月京都大学工学部卒業、同年4月久保田鉄工(現クボタ)入社。1997年枚方製造所建設機械製造部長、1999年宇都宮工場長。2002年取締役に、2004年常務に就任。2005年には品質・ものづくり統括部担当。2006年4月専務、2008年4月副社長を経て、2009年1月社長。2011年1月より会長を兼務。