2012年7月23日、東京電力福島第一原子力発電所の事故を検証する政府事故調査委員会が最終報告書を提出し、民間、東京電力、国会と合わせて4組織による事故調査委員会の見解が全て出そろった。物理学者で技術評論家の桜井淳氏が全報告書を精査したところ、工学的な誤りが見つかった。その1つが、炉心溶融に深くかかわる非常用復水器の作動状況だ。桜井氏がプラントデータから真実を読み解く。(本誌)

 筆者は、4つの事故調査委員会(以下、事故調)の最終報告書全てにじっくりと目を通し、比較検討した(表)。各報告書の特徴を公表された順に見ていくと、民間事故調の報告書は日本の原子力規制を「ガラパゴス化」と断じ、海外の知見を受け入れていない点に言及した。東京電力の報告書は工学的・技術的資料としての価値はあるものの、「国の審査に適合していた」として自らの責任を回避する内容が目立つ。国会事故調の報告書は津波による施設損傷だけではなく、地震による配管損傷の可能性を示唆した。工学的な論証は不十分であるものの、政府や東京電力の責任を厳しく追及するなど、社会科学的側面では4つの報告書の中で最も優れている。最後に公表された政府事故調の報告書では、津波対策や過酷炉心損傷事故対策が不十分だったとしているが、このことは改めて言及されるまでもなく、全体的に特筆すべき内容は見当たらなかった。

 これら4つの報告書を読み解くと、下欄に記した6つの共通点が浮かび上がる。その中で、特に看過できない問題が、[4]工学的な解釈に間違いがある、という点だ。筆者が事故の事実関係を把握するために何十回となく読み込んだ、東京電力が公表したプラントデータや過酷炉心損傷事故の解析結果に照らすと、各報告書にはそれ自体の信頼性を揺るがすほどの重大な間違いが見られるのである。

〔以下、日経ものづくり2012年9月号に掲載〕

表●4つの事故調査報告書の概要と特徴
報告書の記載順序は最終報告書の公表順序に合わせた。
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