動き出す電力改革、それでも続く節電

 2012年7月1日に日本で始まった、政府の「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」。1kWh当たりの買い取り価格は、太陽光発電が42円、風力発電が23.1円、地熱発電が27.3円と高い。太陽光発電では、制度開始を商機と捉え、メガソーラーの建設が相次いでいる。洋上風力発電や地熱発電システムへの注目度も高い。

 政府が進める取り組みはこれだけではない。補助金による定置用蓄電システムの導入支援を進める他、2012年7月13日には、「発送電分離」の方向性を打ち出した。日本で電力システムの改革に向けた取り組みが加速している。

 とはいえ、一連の取り組みの効果が現れるのは、数年先の話だ。2度目となる“節電の夏”を迎えた2012年──。節電対策は、緊急措置的な対応しかできなかった2011年の夏から大きく進化を遂げている。家庭やオフィス、店舗、工場などのあらゆる分野で、抜本的な対策が進み始めた。

『日経エレクトロニクス』2012年8月6日号より一部掲載

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第1部<総論>
定着する消費者の節電意識
目指すはデマンド・レスポンス

東日本大震災から2度目の夏を迎え、消費者の節電意識が浸透しつつある。ピーク電力の抑制に向けた様々な取り組みが盛り上がりを見せる中、各分野でデマンド・レスポンスの実現を目指す姿勢が鮮明になってきた。

デマンド・レスポンスに向けて一歩ずつ前進

 「節電をアピールするのは、もはや当たり前。その中で新たな価値を提供することが求められている」(シャープ 健康・環境システム事業本部 LED照明事業部 第一商品企画部 部長の檜垣整氏)──。

 東日本大震災の発生から2度目を迎える2012年夏、家電や機器メーカーの技術者や企画担当者の多くが、「節電は家電や機器を選択する上で、なくてはならない機能の一つとなった」と消費者ニーズを分析する。震災から2度目となる2012年の夏は、原子力発電所の再稼働問題によって全国で電力不足の懸念があるため、節電への取り組みが全国に拡大している。

 そうは言っても、2011年の夏に東日本で実施したような「場当たり的な節電はありえない」というのが消費者の本音だ。これからは「生活の質を低下させることなく、節電しなければ継続しないだろう」(京都大学 大学院 情報学研究科 知能情報学専攻 教授の松山隆司氏)。

 消費者も電力不足の本質に理解を示し始めている。電力不足の解決に向けて本当に必要なのは、昼間のピーク電力を抑制することであり、2011年の夏に実施されたような電力消費の総量を削減する節電ではない。

 節電意識の高い消費者に対し、ピーク電力の抑制機能を備えた家電や機器を提供することは、競合他社との差異化に向けた大きな武器となる。既に、扇風機やエアコン、エスカレーター、空調設備など様々な分野の機器でピーク電力の抑制に向けた取り組みが加速してきた。

 さらに、実際の電力需給の状況に応じて需要を抑制する「デマンド・レスポンス」を可能にする対応機器や新サービスの提供が始まりつつある。節電の先に新たな市場が生まれようとしている。

『日経エレクトロニクス』2012年8月6日号より一部掲載

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第2部<実践>
家庭、オフィス、工場に向け
技術進化でピークを抑える

ピーク電力の抑制に向けたシステムや機器の開発が活発になってきた。対象は、家庭やオフィス、店舗、工場など、あらゆる分野に及ぶ。各メーカーは、消費電力を抑えるための工夫に知恵を絞っている。

ピーク電力の抑制が定着

 「ピーク電力を抑制することの重要性が、消費者に浸透してきた」と、エネルギー事業の関係者は異口同音に語る。その言葉を裏付けるように、家庭やオフィス、店舗、工場などあらゆる分野で、ピーク電力の抑制に向けた取り組みが活発になっている。

 例えば家庭では、電力需給の逼迫時に需要を抑制する「デマンド・レスポンス」の準備が着々と進んでいる。電力の需給状況に合わせて電気料金を変動させる変動価格制(ダイナミック・プライシング)の実証実験が始まるとともに、家電製品も電力消費量を一時的に抑制する機能を搭載し始めた。

 オフィスや店舗では、2011年夏を上回る節電実績をアピールしようと努力が続く。2011年には、LED照明への変更といった対策を緊急手段として実施済みだ。2012年はさらに踏み込んだ対策が求められており、ピーク電力の抑制に対応するシステムや機器が続々と登場している。

 これに対して、家庭やオフィスよりも長年にわたって節電に取り組んできた工場は、費用対効果に優れるあの手この手の対策をほぼ実施済みである。ただし、CO2削減を主眼とした従来施策に加えて、ピーク電力抑制を考慮した対策を新たに導入する必要に迫られている。先行するメーカーは、ノウハウの外販へと動き出した。

 家庭やオフィス・店舗、工場といったあらゆる場所でピーク電力の抑制に取り組み始めたことで、こうしたニーズに対応するシステムや機器の開発が、新たな競争軸として急浮上している。ここからは、家庭、オフィス・店舗、工場への導入を目指して進むピーク電力抑制向け技術の開発状況を解説する。

『日経エレクトロニクス』2012年8月6日号より一部掲載

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