研究者の視点
産学連携推進機構理事長、一橋大学大学院商学研究科客員教授 妹尾堅一郎氏
慶應義塾大学教授、東京大学特任教授などを経て現職。『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』(ダイヤモンド社)など著書多数。

 日本の年間GDPの約2割、100兆円程度を占める製造業が危機的状況にある。高度成長期から日本経済を牽引してきた製造業、中でもその代表格である電機大手のソニー、パナソニック、シャープは2011年度、3社合わせて1兆7000億円もの赤字を計上した。東京スカイツリーの総事業費が650億円といわれるから、実に26塔分以上の資金が失われたに等しい。
 なぜこんなことになってしまったのか。タイの洪水、円高、3D-TVの空振り、エコポイント特需の前倒し──。これらは事態を加速したに過ぎない。ことの本質はもっと根深い。
 日本の製造業は「モノづくりの神話群」によって崩壊しつつあるというのが私の見立てである。神話の第1は「技術力優位=事業競争力優位」との錯覚だ。今や「技術で勝てれば、事業でも勝てる」わけではない。「技術起点型イノベーション」は限界を見せ、世界の勝ち組は技術を生かすビジネスモデル(商品形態や事業業態)に多くの工夫をした。米Intel社のインサイドモデルや同Apple社のアウトサイドモデルをはじめ、多様なモデルの開発が進み、日本が信奉してきた「技術を開発し、それを製品に実装して、根性ある営業が売りまくる」というモデルでは勝てなくなったのである。

以下、『日経Automotive Technology』2012年9月号に掲載