欧州ジャーナリストの視点
フリーランス・ジャーナリスト Ian Adcock氏
英国在住。『What Car』『Autocar』『Motor』などの自動車専門誌の編集者を経て、1980年からフリーに。自動車技術専門誌の『European Automotive Design』誌に寄稿するなど技術にも詳しい。

 ホンダというメーカーは、欧州から見ると、ちょっとした「謎」である。かつてのアルミニウム合金製スポーツカー「NSX」は、それを運転したジャーナリストからは畏敬の念をもって語られ、伝説的なスーパーカー「McLaren F1」を設計したGordon Murray氏は、そのインスピレーションをNSXから得たと語っている。また、ここ英国では、ホンダ・ユアサ・レーシングの「Civic」が、「National Saloon Car Racing Series」を席巻している。しかし、ホンダのEU(欧州連合)での販売は低下傾向にある。
 2012年1月から5月までの登録台数は、2011年の同じ期間の6万9645台に対し5万8572台と、15.9%減少した。確かに同じ5カ月の間、EU市場全体の登録台数は前年比7.7%減の544万2326台に落ち込んでいる。しかしこれだけでは、ホンダが「Chevrolet」や「Dacia」「スズキ」などのブランドを下回っていることは説明できない。
 ホンダが東日本大震災や、タイで発生した大規模な洪水に苦しんだのは事実だ。その結果、英国Swindon工場での新型Civicの生産開始は遅れ、始まってからも生産台数は計画を20%下回った。生産台数が計画どおりに回復したのは最近になってからだ。加えて、ユーロとポンドに対して円が上昇したことにより、ホンダブランドは重荷を背負わされることになった。

以下、『日経Automotive Technology』2012年9月号に掲載