2012年4~9月号で連載する「デジタルセル生産のススメ」は、作業者1人で1製品の組立作業を完結させる「1人完結セル生産」と、その作業をセンサやITの活用で支援することが、いかに生産現場の作業者のやる気(モチベーション)を高め、ひいては顧客に喜ばれる製品づくりにつながるかを解説します。

作業者の実力がフルに発揮される職場に

 前回(2012年7月号)までは、デジタルセル生産の仕組みを構築する際の技術的な面を述べてきた。今回は、筆者がデジタルセル生産を運用・改善してきた約8年の間にどんな変化が起きたのか、逆に普遍的で変わらなかったものは何かについて、エピソードを交えて紹介しよう。

大きく変化した作業者のマインド

 ローランド ディー.ジー.(以下、ローランドDG)の全ての製造現場にデジタルセル生産を導入してしばらくたった時のことだ。社長の冨岡昌弘氏が製造現場を訪れてこう言ってくれた。

「関君、セル生産の導入で色々なことが変わったが、最も変わったのは製造現場の作業者たちの顔つきだな。実に明るくなった」

 その通りである。当時、筆者は1日3回ほど工場全体を歩き回り、作業者に話し掛けたり、表情を確認したりしていた。そんな中、「もう、ライン生産には戻れないよね」「会社に来るのが楽しくなった」という作業者の声をよく耳にした。そのような声を聞くたびに、筆者が目指す「明るく楽しい現場」の実現が確実に近づいていると自信を深めていった記憶がある。

 本連載の第2回(2012年5月号)で述べたが、筆者が考えるデジタルセル生産では、「集中力」「注意力」「記憶力」といった人間の弱点をデジタル技術で支援し、人間の強みである「手先の器用さ」「向上心・好奇心」をものづくりに生かすことで、作業者に達成感と高いモチベーションを感じてもらう。そして、最終的には組立作業者としての誇りを持ってもらうことを目指している。「私の造った製品が、世界中の人に使ってもらえる」「使った人はきっと喜んでくれるだろう」などと思いを込めながら組立作業を進めてほしいのだ。

〔以下、日経ものづくり2012年8月号に掲載〕

関 伸一(せき・しんいち)
関ものづくり研究所 代表
1981年芝浦工業大学工学部機械工学科卒。テイ・エス テックを経て1992年ローランド ディー.ジー.に入社し、品質改善を切り口とした生産改革に注力。2000年に完成させた、ITを取り入れて効率化した1人完結セル生産である「デジタル屋台生産」が日本の製造業で注目される。2008年からはミスミグループの駿河精機本社工場長、生産改革室長として生産現場の改革に従事。2010年3月に「関ものづくり研究所」を設立。