2012年5~8月号では「射出成形金型入門」をお届けします。樹脂(プラスチック)製成形品の大量生産手段である射出成形金型について、設計、製作、成形などの業務を円滑に進める上で役立つ基礎知識を、経験豊富な筆者が解説します。次号からは新テーマ「災害を技術で防ぐ安全工場」の予定です。

超小型化、環境対応に向けた技術開発が進む

 射出成形技術の応用が広がるにつれて、金型に求められる技術が急速に変化している。本コラム第3回(2012年7月号)までで述べた技術の基本は急に変わるものではないが、射出成形は比較的若い技術とはいえ本格的な普及が始まってから60年経過し、世の中からの要求も変化してきた。それに応える形で、金型も変化しているのである。

 その1つは、非常に小さい部品の作製だ。医療機器分野や電子機器分野などで製品の小型化、高機能化、高密度化の傾向はますます強まり、非常に小さな部品が使われるようになっている。そのような部品を造るためには微細な金型が必要であり、金型加工技術においても10nm以内の精度(シングルナノ)の超精密切削領域が実現されている(図)。

 もう1つは、材料である樹脂の使用量を削減する技術である。例えばホットランナは、成形時にムダになる部分をなくす技術であり、欧州と比べると日本国内での採用はやや遅れたが、今後本格的な普及期を迎えると考えられる。樹脂に気体を溶解させて金型に射出し成形品内部を発泡させることによって、強度を保ったまま軽量化する微細発泡射出成形も、社会的に高まる環境負荷低減要求に対応する技術の1つといえる。

 今回は、射出成形金型の比較的新しいトレンドとして、これらの動向を詳しく見ていく。

〔以下、日経ものづくり2012年8月号に掲載〕

図●切削技術の進歩とシングルナノ超微細・精密切削
図●切削技術の進歩とシングルナノ超微細・精密切削
高速ミーリングの発展形として、切削技術、工具、加工機の組み合わせにより超微細・精密加工が可能になった。

松岡甫篁(まつおか・としたか)
松岡技術研究所
日立製作所、セコ・ツールズ・ジャパン、GEスーパーアブレイシブなどを経て1987年松岡技術研究所を設立。切削加工技術、工具開発、金型生産技術などで活躍。技術士(機械部門)、工学博士(東京大学)。

小松道男(こまつ・みちお)
小松技術士事務所
1993年小松技術士事務所を設立。射出成形や金型の開発、ポリ乳酸射出成形事業化などに関わる。技術士(機械部門)、日本合成樹脂技術協会理事・特別会員。仏Rhone-Alpes州クラスター親善大使。