属人的な設計から脱却する
今回説明する組み込みソフトシステム(以下、ソフト)は、目的性能は全て論理的に導き出せる上、結果性能はゼロである。さらに、環境変動や時間経過による変化や劣化もない。従って、本来ならばソフトの設計手順はメカシステム(以下、メカ)やエレキシステム(以下、エレキ)に比べて格段に単純なはずである。
ところが、ソフトは結果性能や環境変動・経時変化対応などの制約がない分だけ属人的な設計が可能であり、設計の手順書化が最も遅れている。これまで、ソフト設計の効率化のために、構造化プログラミング、データ・オリエンテッド・アプローチ、ERD(Entity Relationship Diagram)、DFD(Data Flow Diagram)、カプセル化、状態遷移図法、UML(Unified Modeling Language)などのソフト工学手法が提唱されてきた。しかし、これらの目的はあくまで効率化だったので、ソフト設計の標準化・手順書化はほとんど進んでいない。
ソフト設計者に要求を示すのはメカ設計者の役割だが、ソフト工学手法はどれも非常に緻密な思考方法なので、公差というブレを許容する思考のメカ設計者は要求仕様をソフト設計者が望む形でうまく提示できない。近年、ソフトに対するメカの要求を厳密に定義することを目的とする「要求工学」という研究分野が登場したのも、そういう背景があるからだ。
〔以下、日経ものづくり2012年8月号に掲載〕
モノづくり経営研究所イマジン 代表