特許は研究開発のテーマ選定や方向性を見極める大きなヒントとなります。特許を上手く利用すれば、研究開発対象の投資回収の期待度や戦略的に技術開発すべき分野が見えてきます。本コラムでは、研究開発で失敗しないための特許取得の戦略とその活用について解説してもらいます。

強みが生きる事業領域をあぶり出す

 前回(2012年7月号)は、事業戦略、研究開発戦略、知財戦略の三位一体の経営(知財経営)における「知財面からの課題解決アプローチ」の重要性と、それに則して体系化した「知財情報戦略」を概説すると共に、代表的な4つの経営課題のうち、[1]アライアンス/企業買収における解析の進め方について解説した。解析に当たっては、全体を俯瞰する「鳥の目」、細部を見る「虫の目」、先を読む「魚の目」という視点が求められることも併せて述べた。

 今回は、前回の[1]アライアンス/企業買収に引き続き、[2]研究開発、[3]マーケティング、という経営課題に焦点を当て、それぞれについて知財情報戦略に基づく実践的解析手法を具体的事例を挙げながら紹介する。

自社技術をどこで生かすか

 グローバル化による厳しい市場競争の中で、製造業でもヒト・モノ・カネの選択と集中がより厳しく求められるようになるとともに、既存事業の延長線上にある研究開発テーマだけでは生き残れなくなりつつある。そのため、収益に結びつく市場性のある研究開発テーマの選定と用途開拓がますます重要になっている。

 こうした課題に対して知財情報戦略は、自社の保有特許や関連技術の強みを生かせる製品や用途を特定できるという点で有効だ。加えて、競合他社による新規事業の成功例を検証することにより、自社の新規事業開発のヒントが得られる。

〔以下、日経ものづくり2012年8月号に掲載〕

山内 明(やまうち・あきら)
三井物産戦略研究所 弁理士
1995年にセイコー電子工業(現セイコーインスツル)に入社。磁気軸受式ターボ分子ポンプの開発などに従事し、優秀発明賞などを受賞する。酒井国際特許事務所での勤務を経て、2003年に物産IPに入社し、知財室長としてナノテク分野の知財戦略策定や実行に従事。2006年より現職。三井物産グループ向け知財コンサルティング部門を統括し、広範な支援サービスを展開する。