「原価低減で超円高に勝つ」。2012年6月20~22日に開催された「第16回機械要素技術展」で講演したトヨタ自動車副社長の新美篤志氏は、日本の製造業を襲う厳しい円高の中で、同社が目指す300万台のクルマの国内生産を維持するためには原価低減が必須であることを改めて語った。

 この言葉に象徴されるように、同展示会ではコスト削減をもたらすさまざまな加工技術が発表された。とりわけ目立ったのは、加工技術の心臓部であり、かつ高いコストが掛かる金型の創意工夫だ。金型を減らしたり、小さくしたりしてコスト削減に結び付けたのである。

金型を8個から1個に削減

 除雪機の開発や金属加工などを手掛けるフジイコーポレーション(本社新潟県燕市)は、金型費を減らせる加工技術「アクア成形法」を開発した。深絞り形状の部品の成形に威力を発揮する(図)。この成形法を、同社は農業機械であるコンバインの部品加工で実用化した。脱穀作業で籾を送るスクリューのカバーだ。材料には、厚さ2.3mmの深絞り用冷間圧延鋼板(SPCE)を選んだ。

 アクア成形法は、いわゆる対向液圧プレス成形法の応用例で、独自のノウハウを加えたもの。導入したのは、アミノ(本社静岡県富士宮市)製の対向液圧プレス機だ。通常のプレス機とは異なり、対向液圧プレス機では本体の下方に水槽(ドーム)があり、中に入った水(対向液)がパンチを受けるダイの代わりを担う。

〔以下、日経ものづくり2012年8月号に掲載〕

図●アクア成形法で加工したサンプル部品
図●アクア成形法で加工したサンプル部品
まず、鋼板から形取りしたブランク材を深絞り形状に成形する。1回のプレスで深く絞れるため、金型を減らせる(a)。これをレーザでカットして塗装してサンプル部品を製作した(b)。