日本がお家芸としてきた材料・素材分野だが、安価な海外製品が台頭してきている。品質にはまだ開きがあるものの、下のグラフが示すように海外の材料・素材を採用する企業は着実に増えている。海外で造られたリーズナブルな材料をいかにうまく使いこなすか。厳しいコスト競争に勝ち抜くため、新たな材料戦略が求められている。(吉田 勝)

Part1:先進企業に見る使いこなしの実態

新興国市場狙い海外材料を積極活用
品質の不安は技術でカバー

 「海外工場では、既に鋼材の6割に現地のものを使っている」(日本精工取締役執行役専務の芝本英之氏)──。

 もはや、海外の安い材料・素材を使うことは特別ではなくなった。事実、自動車メーカーは国内外の工場で韓国製鋼材の採用に踏み切った。トヨタ自動車向けの部品製造会社で造る集まり「協豊会」に、海外の材料メーカーとして初めて韓国Posco社の日本法人が加盟したのは、そうした状況を象徴する出来事だ。

 日本精工や自動車メーカーだけではない。衣装ケースのような樹脂製品からサーキュレータやLED照明などの家電用品まで、幅広い製品を中国で生産するアイリスオーヤマ(本社仙台市)では、中国工場で使う鋼材は既に「全量中国製」(同社常務取締役研究開発本部長の大山繁生氏)だ(図1)。

 同社は現地の加工メーカーから機械加工された部材を購入する。現地材で賄えるのは、同社の製品に使われる鋼材のほとんどがケージやラック用の構造材、線材などで、特殊な材料ではないことが大きい。逆に言えば、普通の材料であれば「鉄鋼メーカーは特に指定することはない」(同氏)というように普通に使えるのである。
〔以下、日経ものづくり2012年8月号に掲載〕

図1●アイリスオーヤマの中国工場と代表的な生産品
図1●アイリスオーヤマの中国工場と代表的な生産品
中国で生産しているLED照明(a)やサーキュレータ(b)。工場は大連アイリス生活用品公司(c)。中国では樹脂製品から電気製品、家具まで幅広い品目を生産する。

Part2:技術者に聞く海外材料の実力

「安かろう・悪かろう」は過去のもの
機能の実現に不可欠な役割も

 海外材料の実力を明らかにすべく、本誌は2012年6月22日~7月5日にかけてWebサイト上で技術者にアンケート調査を実施した。その結果の1つが、p.32に示したグラフである。ここ5年間で、材料・素材を日本メーカーものから海外メーカーのものに切り替えたことがあるかを聞いたもので、実に6割近くが海外メーカーの材料・素材に切り替えたことがあると答えた。日本のお家芸とされてきた材料分野だが、海外材料の採用は急速に進んでいるのだ。

 海外材料の最大の魅力は、なんと言っても安さにある。切り替えたことが「ある」と回答した8割以上が、その理由として「安価だったから」を挙げている(図2)。切り替えた材料を見ると、「鋼材」(15.9 %)、「非鉄金属」(16.5%)、「汎用熱可塑性樹脂」(9.3%)と幅広く、顕著な偏りはない。つまり、金属、樹脂、セラミックスというあらゆる材料分野で、安さを武器に海外材料が流入してきているのだ。しかも、海外工場だけでなく、国内でも同様の動きは進んでいる。
〔以下、日経ものづくり2012年8月号に掲載〕

図2●海外材料採用の動機は価格
海外メーカーの材料・素材に切り替えた最大の理由はその安さにある。8割が切り替え理由として挙げている。回答数は182。
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