特許は研究開発のテーマ選定や方向性を見極める大きなヒントとなります。特許を上手く利用すれば、研究開発対象の投資回収の期待度や戦略的に技術開発すべき分野が見えてきます。本コラムでは、研究開発で失敗しないための特許取得の戦略とその活用について解説してもらいます。

技術者に期待される知財経営への提言

 今回から3回にわたり、市場ニーズや環境変化に対応していかなければならないという経営課題に対して、知財面からどう解決を図るかという「知財面からの課題解決アプローチ」と、それを具体化するための「知財情報戦略」について解説する。

 国内でも知財立国の掛け声の下、事業戦略、研究開発戦略、知財戦略の三位一体の経営(知財経営)が提唱されて久しいが、大手メーカーでさえ十分に実践できていない。

 それだけに、研究開発の現場では知財に根差した観点から物事を見極めていくことが重要になってきた。さらには、研究開発の枠を超えた経営やマーケティングに関わる領域に対しても、そうした観点から技術者ならではの提言を打ち出していくことが期待されている。詳細は後述するが、今回は表の代表的な経営課題と課題解決のアプローチを軸に、その概要を解説するとともに、特に課題[1]の「アライアンス/企業買収」について具体的事例を交えながら、その妥当性を検証する。

〔以下、日経ものづくり2012年7月号に掲載〕

表●本稿で取り上げる代表的経営課題と知財面からの課題解決アプローチ
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山内 明(やまうち・あきら)
三井物産戦略研究所 弁理士
1995年にセイコー電子工業(現セイコーインスツル)に入社。磁気軸受式ターボ分子ポンプの開発などに従事し、優秀発明賞などを受賞する。酒井国際特許事務所での勤務を経て、2003年に物産IPに入社し、知財室長としてナノテク分野の知財戦略策定や実行に従事。2006年より現職。三井物産グループ向け知財コンサルティング部門を統括し、広範な支援サービスを展開する。