ステップアップは、技術者や管理者が基礎力を養ったり新たな視点を導入したりするのに役立つコラムです。2012年9月号までは、ユーザーニーズをつかむ手法の1つである行動観察の活用法を解説する「富士ゼロックスが活用法を指南 行動観察を始めようII」をお届けします。

 2012年4~6月号の連載「行動観察を始めよう」では、行動観察を用いたコンサルティングを手掛けるエルネットの越野孝史氏が、行動観察を実施するときの「観かた」「考えかた」などについて解説してこられました。行動観察とは、製品を使っている人(ユーザー)の行動やその人を取り巻く環境を観察することで、ユーザーの潜在ニーズを抽出し、製品の企画や開発などに役立てようとするものです。今月号からは越野氏の内容を引き継いで、行動観察をものづくりのプロセスで効果的に生かすにはどうすればよいかを解説していきます。

 私は、富士ゼロックスのデザイン部門に在籍しているデザイナーです。富士ゼロックスでは十数年前から、デザイン部門を中心に「人(ユーザー)」の視点に立ったデザインや製品設計をするための手法として、行動観察(当社では「ワーク観察」という言葉を用いますが、ここでは「行動観察」に統一します)を取り入れています。数年前からは社内の技術者教育プログラムの中に行動観察の視点を組み込み、技術者個人の「観察眼」を養ってきました。私は行動観察を日々の業務で実践しつつ、この技術者教育プログラムの講師も務めています。

 これから3回にわたって、そんな富士ゼロックスの取り組みを、背景にある考え方と共に紹介していきます。

 行動観察の具体的な導入方法を説明する前に、ものづくりプロセスにおける行動観察の位置付けについて触れておきます。これをしっかり押さえておくと、次号以降で紹介する事例を理解しやすくなりますし、皆さんが自身の職場で取り入れるときにもきっと役立つと思います。

〔以下、日経ものづくり2012年7月号に掲載〕

蓮池公威(はすいけ・きみたけ)
富士ゼロックス 商品開発本部
1994年、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科造形工学専攻を修了。富士ゼロックスでは、商品開発本部ヒューマンインターフェイスデザイン開発部でユーザー・インターフェイスのデザイン、ワークプレイス研究、Human-Centered Design手法の研究と実践などに取り組む。2008年からは社内技術講座で観察とインタビューの講師も担当。人間中心設計機構の評議員、武蔵野美術大学基礎デザイン学科の非常勤講師。