2012年5~8月号では「射出成形金型入門」をお届けする予定です。樹脂(プラスチック)製成形品の大量生産手段である射出成形に使う金型について、設計、製作、成形などの業務を円滑に進める上で役立つ基礎知識を、金型加工技術と、樹脂材料技術の両面から紹介していきます。

コンピュータ制御を前提とした工具と運用

 金型加工法の中で切削は最も多く用いられている加工法である。その内容は多岐にわたっているが、中でも基本になるのが穴開け加工とフライス加工である。

 穴開け加工は、金型部品のほとんどに必要であるといっても過言ではない。フライス加工は、平面を削り出す加工の他、金型部品の各種形状加工に用いられる。狭く深い溝を形成する場合や、あるいは超硬合金などの切削が困難な被削材を加工する場合は放電加工を用いるが、その際に必要となる放電加工用電極も主にフライス加工で造る。

 穴開け加工とフライス加工のどちらも、現代においてはCNC(コンピュータ数値制御)との組み合わせが必須であり、切削工具と使用技術もCNC切削を前提として見ていく必要がある。切削加工に関する知識は、言うまでもなく金型以外の部品加工にも通じる。

汎用切削とは異なる切削条件

 CNC切削を前提とする、とはどういうことを意味するか、改めて説明しておきたい。

 手動での汎用切削は、ハンドル操作で工具軌跡(カッタパス)を作り出すもので、同時2軸までの切削(例えば、平面上で工具を動かす)が基本である。人間による制御であるため、低送り(工具の移動速度が低い)となることは避けられず、少ない工具の動きでなるべく多量な切りくずを排出しようとするため、高切り込み(被削材に工具が大きく切り込む)になる。このような条件による切削加工では、切れ刃部への熱影響が大きく、不安定で、かつ工具寿命は短くなる傾向にあり、被削材の特性により切削性能が大きく変化してしまう。さらに、加工能率と精度は、作業者の技能レベルに左右されやすい。

 一方、CNC切削は、コンピュータ(ハードウエア)とCNCプログラム(ソフトウエア)による指令内容で所定の形状を切削する方式である。所定の形状を切削加工する場合に最も合理的と考えられる切削工具を用いて、合理的な工具軌跡と切削条件をあらかじめコンピュータに入力することで、マシニングセンタなどの自動運転による加工が可能となる。

〔以下、日経ものづくり2012年6月号に掲載〕

松岡甫篁(まつおか・としたか)
松岡技術研究所
日立製作所、セコ・ツールズ・ジャパン、GEスーパーアブレイシブなどを経て1987年松岡技術研究所を設立。切削加工技術、工具開発、金型生産技術などで活躍。技術士(機械部門)、工学博士(東京大学)。

小松道男(こまつ・みちお)
小松技術士事務所
1993年小松技術士事務所を設立。射出成形や金型の開発、ポリ乳酸射出成形事業化などに関わる。技術士(機械部門)、日本合成樹脂技術協会理事・特別会員。仏Rhone-Alpes州クラスター親善大使。