グローバルセンスは、視野を世界へと広げるために必要なさまざまなテーマを、全ての技術者を対象にして紹介するコラムです。『インドを知る タタ流ものづくり』は今号で終わります。2012年5月号からは、海外で働く技術者のための拠点運営のコツや会計の基礎を解説します。

 第1回(2012年5月号)では、キャッシュフロー経営の基本について述べた。海外拠点の経営を担う技術系の経営者にとって最も重要なお金の大切さを理解してもらうためだ。貸借対照表(B/S)の借方をチェックして資産を圧縮することでお金を生み出せること、また、お金を使う以上は真に生きた資産にしなければならないことが分かってもらえたと思う。今回は、資産の圧縮という観点から棚卸資産、いわゆる在庫の削減がいかに重要かについて話をしよう。

 在庫の削減には、資金の創出という意味があることは第1回でも触れた。工場に在庫があるということは、資金が眠っているということであり、それをいち早く資金に変えなくてはならない。ただし、在庫削減の意味はそれだけではない。

 よく経営再建を目指す経営者が、「とにかく本年度は在庫を大幅に削減せよ」などと号令を発して社内改革に臨む。それは在庫削減が資金を創出するとともに、「仕事の質」を高めて多大なムダや損失の削減に結びつくと知っているからだ。

 ここでいう仕事の質とは、生産リードタイムの短さや顧客の需要動向を把握する営業力といったものである。在庫の量は、こうした工場の仕事の質を示す指標であり、それを削減することは仕事の質の改善、ひいては企業体質の向上につながるという重要な意味があるのだ。

〔以下、日経ものづくり2012年6月号に掲載〕

高橋功吉(たかはし・こうきち)
ジェムコ日本経営 取締役
大手家電メーカーにて、海外経営責任者などの要職を歴任後、ジェムコ日本経営に入社。2007年に執行役員、2011年6月より取締役。上場企業経営トップおよびボードメンバーへの顧問型経営支援をはじめ、グローバル戦略の構築から、製造現場の現場力向上、品質革新など、経営全般にわたって幅広く活躍している。実践に裏打ちされた「分かりやすいコンサルティング」が身上。