世界最高性能の永久磁石「ネオジム磁石」の発明者として知られる佐川眞人氏。その発明やモータの大幅な省エネに貢献したことなどの功績を称えて、2012年の「日本国際賞」を受賞した。大発明の裏側には、「常識」と「実績」に縛られない、独創的な発想があった。

写真:栗原克巳

 私が磁石の研究を始めたのは、富士通に入社してから5年目のことです。特殊なスイッチに使われていたサマリウム・コバルト(Sm-Co)磁石の機械的強度の向上というテーマを与えられました。Sm-Co磁石は磁気特性に優れるものの、スイッチとして動かしているとすぐに割れてしまう。そこで、壊れないSm-Co磁石を開発することになったのです。

 研究は順調に進み、クロムの添加やホットプレスの利用などで機械的強度はみるみる向上しました。一方で、私は、Sm-Coという組成自体に疑問を持つようになったのです。みんなSm-Coで競い合っているけれど、なぜサマリウム・鉄磁石や別のレアアース・鉄磁石をやらないのか、と。鉄とコバルトを比べたら、鉄の方が資源的、コスト的、そして磁気特性的にも有利なのに、鉄を使わないことが不思議でなりませんでした。

 そんな中、あるシンポジウムに参加して理由が分かりました。レアアース・鉄系では鉄と鉄の原子間距離が近すぎて強磁性状態が安定しないため、磁石はできないとされていたのです。この「常識」が研究者をSm-Co開発に向かわせていました。
〔以下、日経ものづくり2012年6月号に掲載〕(聞き手は本誌編集長 荻原博之)

佐川 眞人(さがわ・まさと)
インターメタリックス 代表取締役社長
1943年生まれ。1966年神戸大学工学部卒業、1972年東北大学大学院博士課程修了、同年富士通入社。1982年同社を退職し、住友特殊金属(現日立金属)に入社。1988年同社を退職し、インターメタリックス(本社京都市)を設立。代表取締役社長に就任し、現在に至る。Nd-Fe-B磁石の発明者として、1985年科学技術庁長官賞、1986年米国物理学会「International Prize for New Materials」、1991年日本応用磁気学会学会賞、1993年大河内記念賞、2003年本多記念賞、2012年日本国際賞など数々の賞に輝く。