国家プロジェクトとして理化学研究所と富士通が共同開発した次世代スーパーコンピュータ「京」。2011年11月、理論演算処理性能10.51PFLOPS(ペタフロップス、毎秒1.051京回の浮動小数点演算を行う)を達成し、LINPACKベンチマークのTOP500リストで2期連続となる首位を獲得した。

 京は、最終構成で8万8128個のCPUを組み合わせた巨大な並列コンピュータだ。4つのCPUを搭載したシステムボード24枚などを組み込んだが筺体(ラック)の数は864にもなる(図)。

 その高い演算性能を支えるのは、1つで128GFLOPSの処理能力を持つCPU、並列処理を実現するためにCPUやメモリーなどを結合するLSI(大規模集積回路)であるICC(インタコネクト・コントローラ)といったエレクトロニクス技術だけではない。発熱体を効率的に冷やす冷却システムも大事な役割を果たした。

 特に重要となったのが、CPUやICCといった発熱密度が高い部分に適用された水冷技術だ。京の水冷システムでは、800を超えるラックごとに冷却水を供給し、その冷却水をラック内で24枚のシステムボードへと振り分ける。各システムボードには、CPUやICCに接触させて冷却するクーリングプレート8枚を配管で接続した冷却ユニットを取り付けてある。この冷却ユニットが、京の冷却システムの中核部分である。

 実は、大型コンピュータの水冷技術は富士通にとって「忘れかけられた技術」だった。継続的な開発が止まった技術を復活させることに加えて、それを従来にない新しいコンピュータに適用するには、さまざまな課題を克服する必要があった。

〔以下、日経ものづくり2012年6月号に掲載〕