世界の自動車メーカーがクルマの作り方に大きな変革を持ち込もうとしている。これまで車両のセグメントごとに進めていたプラットフォームの共通化を進化させ、セグメントの枠を越えて部品を共通化しようとしているのだ。その背景には、グローバル市場向けに多様な商品を提供しながら、コストを大幅に下げるという背反する課題を突きつけられていることがある。

 2011年9月のフランクフルトモーターショーでマツダが公開した新型SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)の「CX-5」、同年12月の東京モーターショーにドイツVolkswagen社が出展したコンセプト車「Cross Coupe」、ことし3月のジュネーブモーターショーに日産自動車が出展したコンセプト車「ハイクロスコンセプト」(図)――。
 これらのモデルは、単なる新型車、あるいは将来の新型車を示唆するモデルという以上の意味を持っている。3社の新しいプラットフォーム戦略を体現した最初のモデルでもあるからだ。それは、これまでのプラットフォーム戦略の概念を越えた「メガプラットフォーム」戦略である。
 世界の自動車メーカーは現在、大きな矛盾に直面している。世界の市場の中心は先進国から新興国に移り、あと数年程度で、世界の市場の半分以上は新興国が占めるようになると予想されている。しかし、新興国と一口に言っても、中国、インド、ASEAN地域、南米など、それぞれの地域によって消費者の嗜好は異なる。先進国向けの商品を手直しして新興国向けに展開してきたこれまでの手法では通用しにくくなっている。
 一方で、新興国では先進国以上に低価格化の要求が厳しい。これまで以上に、部品、材料の現地化に取り組むとともに、量産規模を拡大してコストを削減することが必須だ。つまり、完成車メーカー、部品メーカー各社は「量産規模の拡大によるコスト削減」と「それぞれの地域に合わせた商品の多様化」という矛盾した課題を突きつけられていることになる。このパズルを解くカギとして、完成車メーカー各社が取り組んでいるのがメガプラットフォーム戦略なのである。

以下、『日経Automotive Technology』2012年7月号に掲載
図 完成車メーカー各社の新しいプラットフォーム戦略を体現するモデル
図 完成車メーカー各社の新しいプラットフォーム戦略を体現するモデル
(1)マツダの次世代技術「SKYACTIV」を初めてフル搭載した「CX-5」。2011年9月のフランクフルトモーターショーで公開した。(2)2011年12月の東京モーターショーで、Volkswagen社が次世代プラットフォーム「MQB」を導入したモデルとして初めて公開したコンセプトカー「Cross Coupe」。(c)2012年3月のジュネーブモーターショーに日産自動車が出展したコンセプトカー「ハイクロスコンセプト」。日産の新世代プラットフォーム「CMF」を採用したモデルとして初めて公開された。