2012年4~9月号で連載する「デジタルセル生産のススメ」は、作業者1人で1製品の組立作業を完結させる「1人完結セル生産」と、その作業をセンサやITの活用で支援することが、いかに生産現場の作業者のやる気(モチベーション)を高め、ひいては顧客に喜ばれる製品づくりにつながるかを解説します。

人間の弱みと強みをデジタル技術で補う

 前回(2012年4月号)の最後に記したセル生産、特に製品を組み立てる全ての作業を1人に任せる「1人完結セル生産」の3つの大きなハードルについておさらいしておこう。

 第1は、熟練工の養成。大規模アセンブリを1人で完遂できる作業者の養成である。
 第2は、品質の確保。品質管理の仕組みを構築する。
 第3は、設備のコスト。ムダのない設備投資をいかに実施するかだ。

 今回は、これらのハードルをどのようにして乗り越えるかについて考えてみたい。

集中力の継続に頼らない

 まずは、第1のハードルである熟練工の養成を越える方法だ。熟練工というと、長期間の実務経験や訓練によって高い専門的なスキルを身に付けた、いわゆるマイスターと称される人をイメージすると思う。大人数の熟練工の存在が1人完結セル生産の導入の前提であれば、そのハードルはかなり高い。ところが、もし「製造現場の誰もが無理なく1人完結セル生産を行える」ことを実現できればどうだろうか。ハードルは一気に下がり、乗り越えるのは容易になる。筆者が実現したかったのは、まさにこのような状況だ。

 この目的を達成するには、作業者という人間の強みと弱みを熟知する必要がある。それらを知らずに1人完結セル生産の導入を進めると、作業者に無理を強いるだけで、結局、熟練工を養成しなければならないという結論に陥ってしまう。

〔以下、日経ものづくり2012年5月号に掲載〕

関 伸一(せき・しんいち)
関ものづくり研究所 代表
1981年芝浦工業大学工学部機械工学科卒。テイ・エス テックを経て1992年ローランド ディー.ジー.に入社し、品質改善を切り口とした生産改革に注力。2000年に完成させた、ITを取り入れて効率化した1人完結セル生産である「デジタル屋台生産」が日本の製造業で注目される。2008年からはミスミグループの駿河精機本社工場長、生産改革室長として生産現場の改革に従事。2010年3月に「関ものづくり研究所」を設立。