特許は研究開発のテーマ選定や方向性を見極める大きなヒントとなります。特許をうまく利用すれば、研究開発対象の投資回収の期待度や戦略的に技術開発すべき分野が見えてきます。本コラムでは、研究開発で失敗しないための特許取得の戦略とその活用について解説してもらいます。

コモディティー化する時期を見定める

 前回は、知財戦略に関する以下の3つの視点について解説した。[1]必須特許(製品を生産する際に、必ず用いなければならない特許)なくしてマーケット参入はないという「必須特許ポートフォリオ」、[2]市場と特許の2軸マーケティングと技術開発や知財取得の戦略をリンクさせる「知財経営モデル」、[3]経営上の課題を解決するために法律や実務、戦略に関する正しい知識に基づいて特許を取得(知財活動)する「知財経営定着」、である。これらの考えを抜きに事業競争力の維持・向上は期待できない。

 しかし、事業環境は刻々と変化しており、技術分野によっては、上記のような考えに基づく技術開発を実施するだけでは、万全とはいえなくなってきている。簡単に言うと「真っ先に技術開発して必須特許を多く取得することで、競合企業に対する優位性を保ち市場をリードしていく」という、これまで日本企業が得意としてきた技術開発/知財戦略(必須特許ポートフォリオ+知財経営モデル)の実践だけでは、競争力を維持できなくなってきたのである。

〔以下、日経ものづくり2012年5月号に掲載〕

鮫島正洋(さめじま・まさひろ)
内田・鮫島法律事務所 弁護士・弁理士
1985年4月に藤倉電線(現フジクラ)に入社し、電線材料の開発などに従事。弁理士資格を取得後、日本アイ・ビー・エムに入社し知的財産管理業務に従事。弁護士資格の取得と法律事務所での勤務を経て、2004年7月に内田・鮫島法律事務所開設。製造業の知的財産権法を中心とした技術法務や知財経営に関するコンサルティングを中心に活動している。