グローバルセンスは、視野を世界へと広げるために必要なさまざまなテーマを、全ての技術者を対象にして紹介するコラムです。「海外工場を切り盛りする 技術者のための経営入門」は、技術者が工場を運営する際に覚えておくべき経営の基礎知識を解説します。

 「経営計画の策定や決算報告を担当することになったが、これまで全く勉強したことがないので本当に困っている」(自動車部品メーカーの海外工場の製造責任者)。「経営上の数字として何を管理すべきか、どう見ればよいかが分からない。これまで資金計画すら見たことがなく、手探りで進めている状況だ」(家電部品メーカーの海外工場責任者)。

 海外拠点に赴任した技術者の多くが今、こうした悩みを抱えている。製造拠点の海外進出や移転が加速する中、日本国内で生産ラインや生産技術の面倒をみてきた技術者が突然、海外拠点の経営を任されるケースが増えているからだ(図)。コスト競争力などの観点から、企業は限られた人材で海外拠点を運営しなければならない。そのため、技術者が製造だけでなく経営まで担うことが求められる時代になりつつある。

 ところが、そうした多くの“にわか経営者”である技術系経営者に対し、本社の経営者からはしばしば厳しい声が上がる。ある製造機器メーカーの社長は、「技術者として優秀な社員を海外工場に出向させたが、経営が全く分かっていなかった。日本からの指示もほとんど理解できない。事前に少しくらいは経営を勉強させておくべきだった」と嘆く。

 技術者だからという言い訳は通用しない。経営の基本を理解していなかったばかりに、海外拠点が経営危機に陥って全社問題に発展したケースもある。

 これからの技術者はいつ海外拠点の運営を任されるか分からない。その時に備えて、今から経営の基礎をきちんと理解しておいた方がよい。筆者は海外進出企業のコンサルティングに際して、経営に四苦八苦している技術者を数多く目にし、技術者といえど経営の基礎を理解しておく必要性を感じて筆を執ることにした。本講座を読んで、経営上の数字にも強い技術者となり、今後の活躍の場を広げてもらいたい。

〔以下、日経ものづくり2012年5月号に掲載〕

図●技術者にも経営知識が求められる時代に
図●技術者にも経営知識が求められる時代に
海外進出に伴って、技術者に技術面だけでなく工場の経営まで任せる企業が増えている。ところが、経営の基礎を知らない技術者が多く、その運営につまづいている企業は少なくない。

高橋功吉(たかはし こうきち)
ジェムコ日本経営 取締役
大手家電メーカーにて、海外経営責任者などの要職を歴任後、ジェムコ日本経営に入社。2007年に執行役員、2011年6月より取締役。上場企業経営トップおよびボードメンバーへの顧問型経営支援をはじめ、グローバル戦略の構築から、製造現場の現場力向上、品質革新など、経営全般にわたって幅広く活躍している。実践に裏打ちされた「分かりやすいコンサルティング」が身上。