自立式電波塔として世界一の高さ634mを誇る「東京スカイツリー」が2012年5月22日に開業する。そこに組み込まれたさまざまな機械や装置も、世界一の名にふさわしい優れもの。大きさや質量、環境など厳しい制約の中で開発された技術を詳解する。(中山 力)

ライティング機器

2枚の反射板で光を真っすぐ遠くへ

 東京スカイツリーを鮮やかに彩るライティング機器は、パナソニックが開発した。全ての照明にLED(発光ダイオード)を採用し、HID(High Intensity Discharge)ランプを併用したときと比べて消費電力を約4割削減する。

 しかし、東京スカイツリーの照明設計では当初、HIDランプを中心に使うことが考えられていた。そのため、機器の大きさや取り付け位置、質量はHID向けとなっており、そうした制約を満たすためには、新たなLED照明を開発する必要があった。

 HIDランプを前提に設計した光量を確保するために、LEDを設置する数を増すといった方法は選べない。そのため、LEDの技術だけでなく、その光路を制御する「パラボラ曲面反射板」の開発が焦点となった。
〔以下、日経ものづくり2012年5月号に掲載〕

エレベータ

日本最長の昇降距離で重さは40tに

 東芝エレベータは2 種類のエレベータを納入した。1つは、日本最長となる464.4mの昇降距離を持つ業務用エレベータ。長い昇降距離ゆえに増加する質量への対応が必要だった。もう1つが定員40人と大容量ながら600m/分の高速昇降を実現した、地上と展望台を結ぶエレベータ。こちらは乗り心地の向上にこだわった。順番に見ていこう。

 まず、日本最長のエレベータ。「昇降距離が長くなると、必然的に巻上機で支える質量が大きくなる」(東芝エレベータビルディング事業本部ビルディング技術部部長の藤井知秀氏)。このエレベータで使うワイヤロープの長さは500m強。ワイヤロープ1本の質量は約1tに達し、これを10本使う。さらに、カゴやカウンタウエイト、コンペンセータなどが加わり、総質量は約40tにも及ぶ。
〔以下、日経ものづくり2012年5月号に掲載〕

鋼材

厚さ100mmの鋼板を0.1%の精度で円筒に

 東京スカイツリーは、約3万7000ピースの鉄骨を組み合わせて造られている。その総質量は約3 万6000t。これだけの量の鉄骨を約2年という短い期間に集中して供給するため、新日本製鉄、JFEスチール、住友金属工業、神戸製鋼所という日本の主要鉄鋼メーカーと、17 社のファブリケーター(鉄骨加工業者)などが力を結集した。

 ここでは、約1万2700tに及ぶ最大量の鋼材を供給したJFEスチールでの取り組みを例に、円形鋼管の大型化と高強度化の取り組みを見てみよう。円形鋼管は塔体やゲイン塔などに使われており、鉄骨の中でも主役となった部材だ。
〔以下、日経ものづくり2012年5月号に掲載〕

制振装置

高度600m、65tの重りで揺れから守る

 「TMD(Tuned Mass Damper)」は、東京スカイツリーのほぼ先端、高さ600mを超える位置に設置された制振装置だ。25tと40tの重りを持つ2つの装置を、2層構造の制振機械室に設置する(図1)。その目的は、風の影響でゲイン塔が大きく揺れるのを防ぐこと。ゲイン塔が揺れると、そこに取り付けたアンテナの性能に悪影響を与えてしまうことになるのだ。

 開発したのは、三菱重工鉄構エンジニアリング(本社広島市)。「重りの質量、振動数、設置スペースといった仕様とともに、大きな地震があっても壊れないこと、ストロークを最小限にすることなどが設計条件だった」(同社建築事業本部技術部免制振グループ主事の久保充司氏)。
〔以下、日経ものづくり2012年5月号に掲載〕

図1●制振機械室の構造
図1●制振機械室の構造
ゲイン塔の先端にある制振機械室に、TMDは設置されている。2層構造の制振機械室の上階(高さ625m)には25t、下階(同620m)には40tの振動体を持つTMDを配した。大林組の資料を基に本誌が作成。

アンテナ

秒速110mの風に耐え、電波を正確に送る

 東京スカイツリーは電波塔である。その意味で、アンテナは東京スカイツリーの存在意義を担う最も重要な部品といえるだろう。

 そのアンテナでは、向きの精度が性能上非常に重要だが、これまでにない高さに設置されたことで向きの精度をどう確保するのかが課題となった。特に懸念されたのが、風の影響。pp.74-75で紹介した制振装置によってゲイン塔の揺れは抑えられているが、アンテナ側でも風対策が必要だった。

 東京スカイツリーには、テレビ放送、FMラジオ放送、タクシー無線、携帯端末向けのマルチメディア放送などのアンテナが設置されている。これらのうち、日立電線が受注したアンテナはゲイン塔の上部、制振機械室のすぐ下側にある4ユニットで、在京のテレビ放送局6社の地上デジタル放送用アンテナである。その設置高さは600m付近になる。

 遠くからは1ユニットが1つの白い円筒に見えるが、実は、これは小さなアンテナの集合体である。アンテナ1 面は底面が約150×400mmのかまぼこ型。これを縦向きに配置してゲイン塔の外周部を40枚で1周するように等間隔で並べ、4段積み重ねると1ユニットとなる。つまり、1ユニットは160面のアンテナで構成される。
〔以下、日経ものづくり2012年5月号に掲載〕