小型車には軽量で低コスト、高級車には質感が高く、手触りのよいものと、ドアトリムに求められる特性は幅広い。1940年代から内装品を手がける河西工業は、独自の成形技術により表皮を一体化したり、微細な形状を実現する方法を開発したほか、発泡成形による軽量化、加飾技術の研究を進めている。

 ドアトリムの進化を素材から見ると、三つの時代に分かれる。初期の1960年代には硬質ボードにPVC(塩化ビニル)のシートを張ったものが主流であった。1970年代になると、ウレタンを発泡させて、ドアトリムに厚みを持たせて高級感を演出する構造が登場する。硬質ボードやABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)を芯材とし、PVCの表皮との間にウレタンを注入するものである。そして、同様の構造をとりながら、表皮をPVCからウレタンのスプレー成形に変えたのが1980年代だ(図)。
 1990年代以降は、芯材に熱可塑性樹脂であるPP(ポリプロピレン)を使うのが一般化した。廉価車では、全面をPPとする場合もあるが、TPO(オレフィン系エラストマ)や合成皮革といった柔らかい素材を部分的に用いる場合が多い。
 工法としては、表皮の質感を高める技術や、表皮と芯材を一体成形する技術の二つがある。表皮の成形技術は、1970年代終わりに開発された電鋳金型による、めす引き真空成形が高級車で多く使われている。金型にシボと微小な穴を形成しておき、成形する素材を金型側から真空吸引することで、微細な模様を正確に転写できる。

以下、『日経Automotive Technology』2012年5月号に掲載
図 ドアトリムの変遷
図 ドアトリムの変遷
かつては芯材に硬質ボードやウレタンが使われていたが、現在はPP(ポリプロピレン)が主となっている。2008年から発泡剤を入れて発泡部を作る成形法を適用。