第1部<総論>
電池持ちの不満解消へ
あらゆる手段で電力を削る

スマートフォンの「電池の持ち」に、多くのユーザーが不満を募らせる。さらなる高性能化が見込まれるにもかかわらず、電池の容量増加に大きな期待はできない。あらゆる場面での無駄を見逃さず、徹底的に消費電力を減らす挑戦が始まった。

電池容量と性能の溝が拡大

 あなたのそのスマートフォン、電池は一日持ちますか──。

 すっかり携帯電話機の主役となったスマートフォン。2011年度は、国内販売台数で初めて従来型の携帯電話機を上回ったとみられる。順調に普及が進む一方で、ユーザーからある点への不満が噴出している。電池残量がすぐに減ってしまい、いわゆる「電池の持ち」が極めて悪いのだ。MMD研究所の2011年10月の調査では、スマートフォン・ユーザーの実に4分の3が、電池について「非常に不満」または「やや不満」と回答した。

 端末メーカーも危機感を持ち始めた。「最初はスマートフォンを製品として形にすることに主眼を置いていたが、ここ1年は電池持ちの向上をかなり高い優先度で考えている」(ある端末メーカーの技術者)。部品メーカーの協力を得ながら、高性能化と低消費電力化を可能な限り両立させようと取り組んでいるところだ。

 そして端末メーカーや部品メーカーには、さらに高い壁が待ち受けている。今後のスマートフォンでは、2次電池の容量の伸びを上回るペースで性能向上が進む見通しだ。これまでの低消費電力化の取り組みを、一歩も二歩も進化させる必要に迫られる。

『日経エレクトロニクス』2012年4月2日号より一部掲載

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第2部<実現技術>
細やかな制御で難局を打破
電池は新たな発想を模索

プロセサ、ディスプレイ、RF回路はいずれも、低電力化と高性能化の高度な両立が求められる。「動的な電力制御」や「ハイブリッド化」などで、難局を乗り切ろうとしている。エネルギー密度の伸びが限られる2次電池では、新しい発想を取り入れる。

 将来のスマートフォンでは、アプリケーション処理、無線通信処理、そして画面表示という主要機能のすべてで高性能化が要求されることになる。「現在のスマートフォンの一般的な使い方だと、消費する電力量はアプリケーション処理と通信処理、表示がおおむね1/3ずつ」(ある端末メーカーの技術者)という。どれか一つの要素の消費電力を減らすだけでは、求められる高性能化と低消費電力化を両立できない。それぞれの要素で徹底的に消費電力を減らすことが求められる。

電力の使い方もため方も工夫

 第2部では、アプリケーション処理などのプロセサと、ディスプレイ、そして無線通信処理を担うRF回路における、今後の低消費電力化技術を見ていく。併せて、2次電池における容量増加や使い勝手向上のための技術開発の動向を解説する。

 CPUやGPUのマルチコア化や動作周波数の向上などが求められるプロセサでは、半導体の微細化などによる電力利用効率の向上の継続と、動的な電源遮断や電圧/周波数制御の徹底、そして回路のハイブリッド化などが進む見通しだ。

 大画面化と高精細化が進むディスプレイでは、液晶パネルにおけるバックライト光の利用効率の向上、有機ELパネルの発光効率向上がカギを握る。また、次世代の移動通信規格への対応で多数の帯域の無線信号を扱うことが求められるRF回路では、送信電力の波形に合わせてきめ細かく電源電圧を制御する「エンベロープ・トラッキング」などの技術が注目されている。

 体積当たりのエネルギー密度の伸びが限定的なLiイオン2次電池では、電池パックの内蔵化によって容積を増やしたり、急速充電機能によって充電作業の負担を減らしたりといった取り組みが進んでいる。

 電力を使う部分と、電力をためる部分。それぞれの技術革新を追う。

『日経エレクトロニクス』2012年4月2日号より一部掲載

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