雑誌 特集

新・電力システムに懸ける

震災を越えて エネルギー編

佐伯 真也、中島 募、野澤 哲生=日経エレクトロニクス
2012/03/02 09:00
 

第1部<胎動>
スマートグリッドは日本から
まずは家やビルを高効率化

東日本大震災をきっかけに、電力システムを再構築する取り組みが日本で加速している。HEMSの実用化を皮切りに、さまざまな業種の企業が参入し始めた。日本でのスマートグリッドの実現に向け、大きな一歩を踏み出したといえそうだ。

震災を契機に、日本で新産業が萌芽

 「東京電力が電気料金の値上げを発表したことで、多くの企業が導入に前向きになっている」──。

 ある通信企業の技術者がこう語るのは、ビルのエネルギー管理システム「BEMS(building energy management system)」の導入機運の高まりである。東京電力は、契約電力が50kWを超える企業などの需要家の電気料金を2012年4月から平均で17%値上げする。対象となる数多くの企業がコスト上昇を抑えるためには、2011年夏に経験した15%を超える節電を年間を通して実施しなければならない。BEMSはその切り札として期待されているのだ。

 今回の値上げの原因が、福島第一原子力発電所の事故にあるのは言うまでもない。日本の原子力発電所の稼働率が5%を下回っている現状を考えると、電力料金の値上げは全国に広がる可能性がある。もはや「原子力発電所の設備投資で電力供給の安定化を図る」という政府や電力会社の従来の計画は継続困難であり、日本の電力システムの変革は待ったなしの状況である。

 こうした事態に、電機のみならず、住宅や自動車、通信といったさまざまな業界をはじめ、さらに当事者である電力会社や政府が電力システムの変革に向けた取り組みを加速している。これらを組み合わせれば、発電設備から送配電網、オフィスビル、工場、一般家庭に至るまでを通信技術/ITを用いて高効率に制御する「スマートグリッド」をいち早く日本で構築できる可能性が高まってきた。

『日経エレクトロニクス』2012年3月5日号より一部掲載

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第2部<実践>
電力不足を糧に
新たなビジネスが続々

エネルギーに関連するビジネスに変革の波が押し寄せている。電力不足という新たな「ニーズ」に対応するため、新システムが続々と登場してきた。電力会社が主導する構造が崩れ、異業種からの参入も増えている。

 東日本大震災を経て、エネルギーに関連するビジネスを取り巻く状況は大きく変わった。従来、電力関連のビジネスは、電力会社が中心となって技術開発や規格の策定を進め、それに応じる形で電機メーカーが製品化していた。「革新性」よりも「安定性」「堅牢性」が重視されることから、技術の進展は非常に遅く、他の業界から新規に参入する余地はほとんどなかった。

 しかし震災後、これまで不動のものとされていた電力会社の主導権が揺らぎ始めている。電力会社なしでは何も始まらなかった電力関連のビジネスが、規制緩和などによって電力会社を介さずに進められるようになりつつある。

シーズありきでは対応できない

 その背景には、電力会社の取り組みだけでは震災後の電力不足に対応できなくなったことがある。国内すべての企業や家庭で、省電力化の取り組みが求められるようになった。

 特に企業については、電力不足や電気料金値上げが事業継続を左右する経営課題として浮上している。「系統電力は停電しない」という前提は過去のものとなり、技術・仕様といった“シーズ”からの製品化では、電力不足を解決できない状況にある。

 こうした状況変化を受けて、個人や企業の“ニーズ”に基づく新たなビジネスが続々と登場している。その多くは既存の技術や仕様に縛られず、系統電力が長時間停電することも想定した製品だ。電力会社の主導権が弱まったことにより、他業種からの参入も相次いでいる。

『日経エレクトロニクス』2012年3月5日号より一部掲載

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第3部<挑戦>
制度改革で動き出す
蓄電池間での電力融通

かつて「次世代電力システムは研究できても実現は海外で」が一般的だった。その状況が、東日本大震災を機に変わってきた。電力事業の制度改革が検討され、日本でも技術的な挑戦が試せる環境が整い始めてきた。

規制緩和の機運だけで新しいアイデアが続々出現

 2011年3月11日に起きた東日本大震災後の電力不足を受け、異分野を含めた数多くの企業が電力システムに関する事業に参入している。それらを後押しするかのように、より斬新な電力システムや電力の利用環境を構築するための基盤となる電力事業の制度改革が動き始めた。

 経済産業省主催の審議会である総合資源エネルギー調査会 総合部会 電力システム改革専門委員会が、新しい電力事業制度について改革案を審議中である。これまで「社会主義の計画経済」「幕藩体制」と皮肉られてきた従来の電気事業制度が大きく変わる兆しといえる。

 今も審議中であるため具体的な内容は未定だが、電力の自由化を本格的に進めるという改革の方向性は明確になっている。具体的には、(1)電源の種類の多様化や分散化、(2)消費者と生活者、そして地域の重視、(3)電力の需要家側での需給制御や選択肢の多様化、(4)技術開発の強化、の4項目である。

 実際にこうした改革が進めば、これまでの電力会社10社による地域独占体制が崩れ、多様な分散電源が広がる制度や体制に変えられることになる。

電力版M2Mやクラウドも

 既に産業界をはじめ、電力システムの研究開発に取り組む研究開発者は、こうした改革をある程度織り込み済みで新たな電力システムやサービスの構築に向けて動き始めている。

 これまでスマートグリッドの研究開発は、日本国内での実現には大きな壁があるとして、欧米や電力系統が整備されていない発展途上国での展開を目指していた企業や研究者が多かった。これが東日本大震災を機に一変した。日本国内へと回帰し、新しい電力システムを実用化する機運が急速に高まっている。その動きは「電力の文明開化」と呼べるほど多様で大きな広がりを持ったものになっている。

『日経エレクトロニクス』2012年3月5日号より一部掲載

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