IT業界が「ビッグデータ」ブームに沸き立っている。その影響は、機器や設備、部品を手掛けるメーカーにも及びそうだ。これまでデータの分析対象はWebサービスやスマートフォンで集めた人の行動だったが、今後は現実世界に置かれた各種の機器や設備のデータが対象になる。多数のセンサをばら撒いて、大量のデータを集めることで現実世界のさまざまな挙動を知ろうとする試みが始まった。

今まで捨てていたデータを収集

 トヨタ自動車は2012年2月、同年4月に発売するFR(前部エンジン・後輪駆動)スポーツ車「86(ハチロク)」の発表会で、ある仕掛けを用意したことを明らかにした。車載LANであるCAN上を流れる各種の車両データの履歴をスマートフォンに送信できるようにするのだ。

 車速やエンジン回転数、ステアリングの舵角、ABSの作動情報など、走行中の詳細な車両データ約30種類を、スマートフォンのアプリケーション・ソフトウエアや据置型ゲーム機のゲーム・ソフトなどで利用することを想定する。同社は2012年1月に発売したプラグイン・ハイブリッド車「プリウスPHV」には、CANの車両データをトヨタのサーバーに送信するための仕組みを搭載している。

 米Ford Motor社も同様の取り組みを進めている。米Bug Labs社と共同で、CANの車両データをスマートフォンなどで読み取れるようにする研究プロジェクト「OpenXC」を進めることを2011年9月に発表した。2012年2月には、ベータ版の開発キットを一部の企業や大学に公開している。

 自動車メーカーが車両制御に用いていたデータを外部に出そうと相次いで試みているのは、データの価値に気付いたからだ。自動車メーカーが車両データを大量に収集し、分析することによって、例えば自動車のメンテナンスの効率化、事故が起こりやすい地点の推定、車種ごとの運転傾向の分析に基づく製品企画への反映など、従来は提供していなかったサービスが実現できそうだ。

『日経エレクトロニクス』2012年3月5日号より一部掲載

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