「ナノベーション」──。TataMotors社が超低価格車「Nano」を造る際に発揮した開発手法を、筆者はこう名付けた。車名とイノベーションを組み合わせた造語である。
イノベーションの定義は、新しいものを生み出すこと、または既存のものを新しい方法で生産すること。Tata Motors社以外の自動車メーカーは、わずか10万ルピー(当時の為替レートである1ルピー2円換算で20万円)という価格で販売できるクルマの開発は「不可能」と言っていた。それができたのだから、そこには何か特別なイノベーションがあったのではないかと考えるのは当然だ。
同社はものづくりを、企画から始まり、設計、製造、そしてユーザーへ販売するまでの全てを包含する広い概念で捉えている。従って、ナノベーションの本質を考えるとき、単に技術革新という意味で捉えることはできない。製品革新、生産革新、市場革新、材料革新、システム革新といった、あらゆる分野のイノベーションが総合的に絡み合っていると解釈するのが自然だろう。だからこそ、ナノベーションという独特の呼び方がふさわしいのである。
ナノベーションによって考えられた「節約型製造法」は前回(2012年2月号)で紹介した。今回はナノベーションが生まれた背景を探ってみたい。
〔以下、日経ものづくり2012年3月号に掲載〕
東京大学 特任研究員