ステップアップは、技術者や管理者が基礎力を養ったり新たな視点を導入したりするのに役立つコラムです。2012年3月号までは「渋滞学・西成教授の数学で闘え」をお届けします。次号からは、ユーザーのニーズをつかむ上で効果の高い「行動観察」をテーマにした連載が始まります。お楽しみに。

 2年間にわたってお届けしてきた『数学で闘え』が、今回でいったん、最終回を迎えることになりました。いったん…の理由は最後の最後に明かすことにして(笑)、私が最終回にと残しておいた、取っておきの「武器」をご紹介して締めくくります。十分にご堪能ください!

 前回は、私の専門である非線形の分野から、「振動」を取り上げました。線形が抽象化によって物事を理解しやすくしているのに対して、非線形は現実の世界で起こる現象を忠実に表現するものです。例えば現実のばねは、ずっとsintで揺れるわけではありません。揺れが大きくなると、周期がsintよりも短くなったり(ハードばね)、長くなったり(ソフトばね)します。この揺れ方を非線形の式で表してみると、その振動数はハードばねでもソフトばねでも、なんと振幅に影響されることが分かります。

 複数の要素が互いに関係し合って全体に影響を及ぼす。これが非線形の特徴であり、私が皆さんに伝えたいことでもあります。皆さんはものづくりの現場で、抽象化された世界ではなく現実の世界を相手にしています。だからこそ皆さんには、非線形を上手に活用して、ブレークスルーを生んでいっていただきたいと願っています。

〔以下、日経ものづくり2012年3月号に掲載〕

西成活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。1995年に東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程を修了後、山形大学工学部機械システム工学科、龍谷大学理工学部数理情報学科、独University of Cologneの理論物理学研究所を経て、2005年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻に移り、2009年から現職。著書に『渋滞学』『無駄学』(共に新潮選書)など。