2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所の事故。炉心溶融という最悪の事態を引き起こし、日本中を、いや世界中を震撼させた。こうした悲しい事故を繰り返さないためにも、そして今後の日本において原子力発電を継続するか否かを判断するためにも、事故の背景にある事実を正しく把握することが重要だ。本特集では、事故に至った原因を分析しつつ、「設計の隙」と「原子力規制の隙」という2つの視点から今回の事故を通して学ぶべき教訓を探る。(日経ものづくり)

設計の隙

欠けていた「想定外」の認識

 政府は2011年末、福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)の事故に関し収束宣言を出した。そうとはいえ、既に放射性物質が広い範囲に放出され、その被害の範囲や期間については不確かなことが多い。避難を余儀なくされた住民だけでなく、農産物への汚染なども深刻だ。廃炉への道のりを考えてみても、国民に長く大きな負担を強いることは確実である。そうした中、2011年10月から2012年1月にかけて、福島第一原発に関する事故調査報告書が政府や民間から相次いで公開された。本稿ではそれらを参考に、事故が起きた技術的要因を探る。

〔以下、日経ものづくり2012年3月号に掲載〕

原子力規制の隙

軽視されていた専門性と独立性
(物理学者・技術評論家 桜井 淳)

 原子力規制とは、原子力施設の安全を確保するための社会科学的手法や自然科学的手法による統治・共治のことだ。2011年3月11日の福島第一原子力発電所の事故を機に、日本の規制の在り方が問い直されることとなった。そこで、新たに原子力規制を担う組織として2012年4月1日に発足するのが「原子力規制庁」(仮称)である。本稿では、日本の原子力規制の問題点を抽出し、新組織はどうあるべきかを提言する。

〔以下、日経ものづくり2012年3月号に掲載〕