第1部<展望>
自由をもたらすミラーレス機
カメラ開発に革命を起こす

レンズ交換式のミラーレス・カメラの市場拡大が本格化している。これは、カメラ業界が「パンドラの箱」を開けたことを意味する。今後、一眼レフ・カメラにとどまらず、コンパクト・カメラにも影響が及ぶ。

「パンドラの箱」が開いた

 低迷が続く薄型テレビや海外メーカーの勢いに押されるスマートフォンなど、今ひとつ元気のない国内のエレクトロニクス業界で一人気を吐く存在の製品分野がある。レンズ交換式のデジタル・カメラだ。

 市場の牽引役になっているのが、いわゆる「ミラーレス型」のレンズ交換式カメラ(ミラーレス機)である。最初の製品が登場してから約3年。まず火が付いたのは国内市場だ。調査会社のジーエフケー マーケティングサービス ジャパン(GfKジャパン)によれば、デジタル一眼レフ・カメラ(一眼レフ機)を含めたレンズ交換式カメラの国内販売台数のうち、4割近くを占めるまでに市場が拡大した。

 日本発のこの動向は、世界的に広がるとの見方が強い。調査会社の富士キメラ総研は、ミラーレス機の世界出荷台数が2015年に1800万台に達するとみる。これは、2010年比で9倍以上の数字で、一眼レフ機の予測値を上回る。既に、経済成長が著しい東アジアでは普及の兆しが出ている。「時間差はあるかもしれないが、いずれ欧米でもミラーレス機は普及する」と、カメラ業界関係者の期待は大きい。

 ミラーレス機が普及の道を歩み始めたことは、単なるカメラの一分野が生まれた以上の大きなインパクトを持つ。カメラ業界、特に一眼レフ機の開発メーカーにとっては「パンドラの箱」を開けたことを意味するからである。

『日経エレクトロニクス』2012年2月20日号より一部掲載

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第2部<最新機種に見る新技術>
技術開発に新提案続々
「一眼レフ超え」を目指す

国内における販売比率がレンズ交換式カメラの40%にまで達したミラーレス機。メーカー各社が一眼レフ機にはなかった新しい提案を競う。ミラーレス機の技術動向を最新機種から探った。

高画質を実現する新技術を注入

 「とにかく、素晴らしいカメラを作ってよ」──。

 2009年のある日、富士フイルムの松本雅岳氏(電子映像事業部次長 兼 電子映像事業部営業部 営業部長)は、上司からの突然の“指令”に面食らった。

 発言の主は、同社のカメラ事業を統括する樋口武氏(取締役 常務執行役員 電子映像事業部長)。同社は当時、コンパクト・カメラ事業の立て直しの真っただ中。低価格品の投入によって徐々に市場シェアを回復させてはいたが、それだけでは将来的な成長は期待できず、新たな事業の柱を模索していた。

 そこで、樋口氏が採った戦略が、カメラ市場でのブランドの確立だった。「高画質で高品質=富士フイルム」というイメージを消費者に植え付けようと考えた。

 冒頭の、まるで雑談のような発言をきっかけに誕生したのが、ミラーレス・カメラ「FUJIFILM X-Pro1」。同社が2012年2月18日に発売したばかりの高級機である。

「銀塩」をヒントにした撮像素子

 カメラ事業の成長を期する富士フイルムは、今回の新機種に新技術を惜しみなく投入した。高画質にこだわり、CMOSセンサを新たに開発した。樋口氏は「今回のCMOSセンサはAPS-Cサイズながら、主に一眼レフ機向けの35mmサイズの撮像素子と同等以上の高画質を実現した」と自信を見せる。

『日経エレクトロニクス』2012年2月20日号より一部掲載

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第3部<次世代技術の芽>
さまざまな「レス」への挑戦で
人に見せる写真を美しく

ミラーレス機の普及に沸くデジタル・カメラ分野で、次世代技術の開発が活発化している。キーワードは「スマートフォン」と「撮像素子の高画素化」だ。従来のカメラ開発を縛ってきた“固定観念”を根本から覆す可能性を秘めている。

さまざまな「レス」で究極のカメラの実現を目指す

 2012年1月下旬。ソニーは東京都港区の本社近くで、裏面照射(BSI:backside illumination)型CMOSセンサの新技術の記者発表会を開催した。デジタル・カメラではなく半導体の1製品、特にCMOSセンサという要素技術について、同社が発表会を開くのは極めて異例の出来事。新技術ヘの力の入れ具合が並々ならぬことを物語っていた。

 発表した新技術は、信号処理などの論理回路を集積したLSIをBSI型CMOSセンサの裏側に積層するもの。センサ自体の大幅な小型化と同時に、従来は外付けの画像処理回路とセンサを組み合わせた「カメラ機能」を一つのパッケージに収めることを狙う。

カメラ技術の未来を象徴

 ソニーが投入する技術は、カメラ技術の開発が今後向かう二つの方向性を象徴している。

 一つは、急速に普及するスマートフォンがミラーレス・カメラと並んで、最先端技術の実験場になるということ。ソニーは今回発表した積層型CMOSセンサの投入分野に、まずスマートフォンを選んだ。もう一つの方向性は、高画素化が進む撮像素子の画素部を、従来の一般的な撮像処理とは異なる機能に振り向けることである。ソニーは今回の新技術で、ふんだんにある画素をうまく使い、撮影時の感度やダイナミック・レンジを向上させる機能を実現した。

 これらの方向性を核に、従来のカメラに搭載することが当たり前だった、さまざまな機能や機械的な機構をなくす「レス」を目指す取り組みが加速する。

『日経エレクトロニクス』2012年2月20日号より一部掲載

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