第1部<パラダイム・シフト>
超早期発見の実現へ
エレクトロニクスに集まる期待

医療の世界に、パラダイム・シフトが起ころうとしている。がんを超早期の段階で発見し、克服しようとする動きだ。エレクトロニクス技術にその牽引役としての期待が集まっている。

がんの超早期発見に向けた技術開発が活発に

 「がんは、症状が出てからでは完治する可能性が低くなる。非常に早い段階で見つけて対処することが、治癒率向上のカギを握る」(国立がん研究センター 東病院臨床開発センター 臨床腫瘍病理部 部長の落合淳志氏)。

 日本人の死因トップを30年にわたって維持している病気。それが、がんである。日本人の2人に1人が生涯に一度はがんを患い、3人に1人ががんで亡くなる時代を迎えた。親族にがんを経験した人が一人もいないという読者はまれだろう。

 この難敵に打ち克つためには、どのような“闘い方”が必要なのか。その答えが、がん医療のエキスパートである落合氏の冒頭のコメントに含まれている。「超早期」といえる段階でがんを見つけだし、その芽を摘んでしまうことである。

 エレクトロニクス技術は、この超早期発見の実現に、大きな役割を果たし得る。「従来は見えなかったカラダの変化が、エレクトロニクス技術の後押しによって分かるようになってきた」(島津製作所 フェロー 田中最先端研究所 所長の田中耕一氏)。エレクトロニクスが秘めるこのような力が今、がん医療の姿を大きく変えようとしているのだ。その事例が、ここに来て幾つも生まれている。

『日経エレクトロニクス』2012年2月6日号より一部掲載

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第2部<技術開発事例>
身近な手法や試料で
わずかな兆候を見つけだす

がんの超早期発見につながる技術の開発が活発化してきた。1滴の血液や唾液、呼気から、がんの兆候を見つけだす。そうした方法で、身近なところでがんを調べられるようになりそうだ。

簡便な手法や取得しやすい生体試料で調べる

 がんの超早期発見につながる技術が、続々と提案されている。直径が1cmを下回るようながんや、がんになるリスクが高い組織を、従来に比べて(1)簡便な手法や(2)取得しやすい生体試料から調べる技術である。

 (1)では、X線CTやPETなどの大掛かりな診断装置を使わずに、LED光などを用いた小型の機器でがんを発見する手法が登場している。(2)では、唾液やごく微量の血液など、容易に取得できる生体試料からがんを捉えられるようになってきた。いずれも、家庭や診療所など、日常生活に近い場所でがんを見つけることを可能にする。

 これらの事例には、必ずしも微小ながんを直接的に見つけだす手段にはならないものも含まれる。ただしその場合でも、身近な場所でがんを手軽に調べられるという特徴が、がんの超早期発見につながる可能性を高める。医療機関で本格的ながん診断を受けるキッカケになるからだ。

 (1)と(2)に関する、最新の開発事例を紹介する。

『日経エレクトロニクス』2012年2月6日号より一部掲載

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第3部<治療・診断の技術進化>
手に取るように診て
ピンポイントで治す

がん医療におけるエレクトロニクスの活躍の場は、超早期発見にとどまらない。治療や診断の領域にも革新をもたらしつつある。患者の体に優しく効果の高い治療や診断が、現実のものとなってきた。

治療・診断にも技術革新

 超早期発見にはまだ手が届いていない現在のがんの治療・診断技術も、飛躍的な進化を遂げつつある。1cmを超えるようながんができても、より効果的な診断と治療を施せるようになってきた。こうした進化を下支えしているのも、エレクトロニクス技術である。治療・診断の領域にも、エレクトロニクス企業の商機は広がっているのだ。

放射線治療などの進化を牽引

 まず、治療分野では化学療法(薬)と放射線療法、外科療法(手術)という3大治療のそれぞれで、エレクトロニクスの知見が活用され始めた。

 特に、エレクトロニクス技術によって目覚ましい進展を遂げているのが、放射線治療である。体を切らずにがんを治療できる“患者に優しい”治療法とされる放射線治療が、がんをピンポイントで治す方法として広く使われるようになってきた。ここには、がんだけに放射線を集中させるための放射線制御技術や画像処理技術が、存分に生かされている。

 従来はエレクトロニクス技術の入り込む余地がさほど大きくなかった化学療法についても、コンピュータの演算能力を抗がん剤の効率的な開発につなげる、という画期的な試みが出てきた。

 外科療法については、執刀医を支援するロボット技術や、外科治療の代替手段となる可能性を秘めた超音波治療などに、エレクトロニクス技術がかかわってくる。

 次に、診断分野では、がんを手に取るように診るための進化が顕著である。コンピューティングや画像処理、センシングなどのノウハウが投入されることで、小さながんの形態や性質を可視化できるようになってきた。

 これらの技術が支援する形で、がん医療は今後、さらなる進化を遂げていくことになるだろう。

『日経エレクトロニクス』2012年2月6日号より一部掲載

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