今世界の自動車市場で急成長を見せているのがRenault-日産、ドイツVolkswagen、韓国現代自動車(Hyundai Motor社)の三つの自動車グループだ。それぞれの頭文字を並べると「NVH」になるこれらのグループは、世界の自動車メーカーが不振にあえいだリーマンショック後に、むしろ成長を加速させている。NVHはなぜ強いのか、その強さは持続可能かを検証する。(鶴原吉郎)

Part1:躍進するNVH

成長にこだわるリーダーシップ、伸びる市場に迅速にシフト

Renault-日産(N)、Volkswagen(V)、Hyundai(H)の「NVH」はなぜ強いのか。その背景には、強いリーダーシップに支えられた成長へのこだわりがある。需要が旺盛な新興国で、他社を上回る成長を達成する一方で、環境技術でも独自技術を追求し、高いブランドイメージを構築した。NVHの強さを通して、これからの自動車産業における成長の条件を探る。

 2008年9月のリーマンショック、そして2011年3月の東日本大震災を経て、世界の自動車産業の風景は大きく変わった。それまでビッグ3として君臨してきたトヨタ自動車グループ、米GM社のグループ、米Ford Motor社のグループの地位が相対的に低下し、代わって台頭してきたのがRenault-日産グループ(以下Renault-日産)、ドイツVolkswagen社のグループ(以下VW)、韓国Hyundai-Kiaグループ(以下Hyundai)の「NVH」3グループだ。
 その強さは、データからも裏付けられる。自動車専門の調査会社であるIHS Automotiveの調査(図1)によれば、2008年まで自動車生産台数で1~3位を占めていたトヨタグループ、GMグループ、Fordグループの3グループはリーマンショック以降の生産台数の落ち込みが大きく、2011年にも、過去のピークまで戻すことができていない。
 これに対しNVHの3グループは、いずれもリーマンショックの影響は軽微で、2011年には過去最高の生産台数を達成したと見られる(2011年12月時点での予測に基づく)。
 NVHはなぜ強いのか。その源を探っていくと、根底にあるのは強力なリーダーシップに支えられた、成長への意志だ。VWは2010年3月、2018年に世界一の自動車グループを目指すという企業ビジョン「Strategy 2018」の詳細を発表した。2018年までに、生産台数を現在の800万台前後から1000万台以上に増やすことを目標に掲げる。

以下、『日経Automotive Technology』2012年3月号に掲載
図1 Renault-日産グループ(日産)、Volkswagenグループ(VW)、Hyundaiグループ(Hyundai)の「NVH」は成長率が高い
GM、トヨタ、Fordの各グループは過去のピークまでグローバル生産が回復していないのに対し、NVHは2011年に過去最高を更新する(IHS Automotiveによる2011年12月時点での予測、車両の設計メーカーをベースとした生産台数)。

Part2:新興国で急成長

新型車の投入は中国から、企画・開発で現地化を徹底

新興国は、国により文化的・制度的な違いが大きく、画一的な商品展開では成功は望めない。Hyundaiは中国市場で、グローバルモデルを現地の消費者の嗜好に合わせて改良して成功。日産は開発段階から新興国市場を強く意識し、中国市場に優先的に新モデルを投入する。現地化で一歩先を行くVWは、企画から開発まで現地で対応可能な体制を構築した。中国を中心に、市場の違いを考慮したNVHの製品開発戦略を見る。

 野村證券産業戦略開発部マネージング・ディレクターの北川史和氏は、新興国市場で勝ち抜いていくために「セミ・グローバリゼーション」という概念を理解することが必要だと語る。
 これは、スペインの経営大学院であるIESE教授のPankaj Ghemawat氏が提唱するもので、グローバル化する中でも世界の国ごとの文化的、制度的、地理的、経済的な差異は依然として大きく、グローバルに事業展開する企業はこうした点を十分に考慮しなければならないという。つまり、従来の集中開発・集中生産した製品を世界中で展開する「グローバリゼーション」の考え方から、それぞれの国の違いを十分に考慮したセミ・グローバリゼーションの考え方に切り替えなければならないというものだ。
 従来、日本の自動車メーカーの中国市場における戦略は、先進国向けに開発した最新製品を、いち早く持ち込むというものだった。ホンダやトヨタ自動車が中国に進出した2000年前後は、欧米系企業と中国企業の合弁会社が現地生産する低価格の旧世代製品か、非常に高価な輸入車という二つの選択肢しかなかった。
 そこに日本の自動車メーカーが最新製品の現地生産を始め、欧米系企業の輸入車よりも安く販売し始めたことで、日本車のシェアは急速に拡大した。日本メーカーにとって重要なのは、日本の工場と同等の品質と、日本のディーラーと同等の顧客サービスを、中国で実現することであった。

以下、『日経Automotive Technology』2012年3月号に掲載

Part3:環境技術でブランド強化

電動化を加速するVW、キャッチアップ急ぐHyundai

「TSI」と「DSG」を核に環境技術でブランドを築いてきたVW。世界で初めての量産EV「リーフ」を看板にブランド価値を高めてきた日産。しかしここに来て、VWが電動化に、日産がダウンサイジングに力を入れるなど、両社の戦略は交差し始めている。一方、これまで環境技術で特徴に乏しかったHyundaiも、会長肝いりで燃料電池車(FCV)の実用化に力を入れるなど、先進イメージの演出に余念がない。

 これまで既存のエンジンの革新を燃費向上技術の中心に据え、ブランドを築いてきたVWが、電動化技術の導入に本格的に取り組み始めた。
 VWは2011年秋の東京モーターショーに、排気量1.4Lのガソリン直噴ターボエンジン「TSI」と、DCT(Double Clutch Transmission)の「DSG」、それに出力20kWのモータを組み合わせたハイブリッドシステムを展示した(図2)。同社はこのシステムを搭載した「Jetta Hybrid」をデトロイトモーターショーで公開、2012年11月から北米で、2013年以降に欧州でも発売する計画であることを明らかにした。
 これまでVWのハイブリッド車は、高価格のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)の「トゥアレグ ハイブリッド」しかなく、販売比率は低かった。しかし今回のJetta Hybridは、EPA混合モード燃費が45mpg(19km/L)、予想価格も2万6000ドル(1ドル77円換算で約200万円)とホンダ「Civic Hybrid」の混合モード燃費(44mpg、18.7km/L)、価格( 約2万4000ドルから)に近い。VWが普及を狙った初めてのハイブリッド車と位置付けることができる。
 このJetta Hybridのみにとどまらず、VWは電動化車両のラインアップを大幅に拡充する。ハイブリッド車では、2012年にAudi社の「A6」などセダン系にも車種を拡大するほか、EVもGolfなどの主力車種に広げる。マイルドハイブリッドまで含めれば2020年までに「ほとんどすべての車種が電動化する」とVWで研究開発を統括する取締役のUlrich Hackenberg氏は語る。

以下、『日経Automotive Technology』2012年3月号に掲載
図2 VWが2011年秋の東京モーターショーに出展したハイブリッドシステム
排気量1.4Lの「TSI」エンジンに、出力20kWのモータと、7速DCT(Double Clutch Transmission)の「DSG」を組み合わせている。北米仕様の「Jetta」に搭載して2012年秋に商品化する計画。