グローバルセンスは、視野を世界へと広げるために必要なさまざまなテーマを、全ての技術者を対象にして紹介するコラムです。2012年1~4月号では、『インドを知る タタ流ものづくり』を取り上げます。インドの自動車メーカーTata Motors社を事例に、インド市場で成功する条件を学びます。

 低価格で車体も小さいけれど、技術がたくさん詰まったクルマ──。Tata Motors社は、小型車「Nano」の名前にこうした意味を込めた。「(2003年の開発開始以来、同社が目指していた)10万ルピー(当時の為替レートである1ルピー2円換算で20万円)などという低価格で、まともなクルマを造れるはずがない」とみていた他の多くの自動車メーカーの予想を大きく裏切り、2008年に発表されたNanoは、簡素だが大人4人が十分乗れるハッチバック(ワンボックスカー)・スタイルの立派なクルマだった。

原油や原材料の高騰を吸収

 生産面では、工場用地の取得に関して住民の反対運動が起きて立ち上がりが遅れたものの、2009年7月からの納入に間に合うように既存のPantnagar工場でNanoの生産を開始。その後、2010年6月にはNano専用のSanand新工場を稼働させ、本格的な量産体制に入った(図)。発売当初はクルマの発火・火災事故が発生して生産の足を引っ張ったがそれも乗り越え、国内販売にとどまらず、スリランカやネパールへの輸出まで実現させている。

〔以下、日経ものづくり2012年2月号に掲載〕

図●Nanoの組立ライン
Tata Motors社はNanoを専用で生産するSanand工場を立ち上げた。量産効果によるコスト削減が狙える。

伊藤 洋(いとう・ひろし)
東京大学 特任研究員
1965年山形大学工学部を卒業後、本田技研工業に入社。プレス技術、車体開発業務に従事。1974年同社から生産技術部門として独立したホンダエンジニアリングへ異動。1986年取締役。車体研究開発、品質管理を担当。自動車工業会委員、自動車技術会委員も務める。2001年に退職後、インド、タイ、パキスタンへ技術支援活動を展開。2004年から東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員。