2008年1月、30歳代の男性が自宅でゴム製の角材を電動ノコギリで切断していたところ、突然、電動ノコギリが手を離れて跳ね上がり右手の中指を切断するという事故が発生した。これだけではない。電動ドリルや電動カンナ、ディスクグラインダといった家庭用電動工具による事故が多発しているのだ。

 「PIO-NET」(全国消費生活情報ネットワーク・システム)には、家庭用電動工具に関する相談が2006~2011年9月末までの約5年間で257件寄せられ、そのうちの危害情報は19件(危険情報は21件)だった。「危害情報システム」の病院情報としては2005~2009年度の5年間で347件の電動工具に関する危害情報を収集している。さらに、2010年12月に開始された「医療機関ネットワーク」には2011年9月末時点で既に26件の危害情報が寄せられた。

 電動工具はホームセンターや通信販売などで誰でも購入できる。最近では一般消費者向けの製品も多くなってきており、ホームセンターなどではレンタルで電動工具を手にすることも可能だ。このため、一般消費者が電動工具を扱う機会は大幅に増えた。

 ワークを加工する機能を持ち、それを使用者が直接操作する電動工具において、本質安全を求めるのは難しい。ワークを切断する刃物の露出を完全には防げないからだ。

 だからといって、電動工具の安全を確保する責任が全て使用者にあるわけではない。発生した事故の原因の一端が使用者の不注意や誤使用にあったとしても、電動工具側で実施できる対策はないのか──。それを探るべく、国民生活センターが2011年9~10月に実施した電動工具に関する事故の再現実験の結果を見てみよう。

〔以下,日経ものづくり2012年2月号に掲載〕