大企業から中小企業まで、多くの企業の知財戦略を支援してきた弁理士の佐藤辰彦氏。その目は今、特許というフィルタを通して研究開発の在り方に注がれる。リーマンショックや東日本大震災を経験し大きな岐路に立たされた製造業。技術者は今何をすべきなのか。佐藤氏は、新たな研究開発モデルの構築が重要と説く。

写真:栗原克巳

 日本メーカーが開発した製品が日本以外の市場で思ったほど受け入れられないのはなぜか、売れないのはなぜか。経済産業省の産業構造審議会基本問題小委員会ではこんな議論を重ねてきました。その結果、顧客に何をどのように提供するかといった出口を見据えた研究開発が行われていない点に問題があるという結論にたどり着いたのです。

 これまで日本メーカーは擦り合わせ技術を駆使した材料や要素部品などで特に強さを発揮してきました。それができたのは、日本には長年にわたって多くの技術・技能が集積されてきたからです。逆にそれらが集積されていない中国や韓国は、この分野ではまだまだ追いつけません。

 ただ、この分野が残念なのは、価格のイニシアチブを取れないという点です。価格は最終製品で決まります。その価格を下げられたら、材料も要素部品も下げざるを得ず、売り上げにつながりにくい傾向にあります。実際、この分野でオンリーワン企業として高いシェアを占める日本メーカーも、売上金額を見れば、最終製品を扱う海外メーカーに比べて小さいところが大半です。
〔以下、日経ものづくり2012年2月号に掲載〕(聞き手は本誌編集長 荻原博之)

佐藤 辰彦(さとう・たつひこ)
創成国際特許事務所 所長
1946年福島県生まれ。1967年福島工業高等専門学校工業化学科卒業、1971年早稲田大学法学部卒業。1973年弁理士登録。1992年日本弁理士会副会長、2004年同会総括副会長、2005年度同会会長。1986年創成国際特許事務所を創設。その傍ら、内閣府知的財産戦略本部有識者本部員、産業構造審議会特許小委員会委員など政府関係の委員を多数歴任。2008年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程後期修了(学術博士)、同大大学院商学研究科客員教授。