雑誌 2012年2月号 特集

使ってみたい材料30

2012/01/25 10:46
 

 製品設計上の重要課題に直面したとき、解決の切り札になり得るのが新たな材料の採用だ。特に省エネルギ、CO2排出量削減の流れの中で、構造物の軽量化の決め手としてより高強度の材料を追求する動きは、ますます強まっている。もちろん、それだけではない。これまで予想もつかなかったような機能を持つ材料も次々と生まれている。その材料を選ぶ上で、日本のメーカーであることは地理的に有利であるといえる。材料は日本のお家芸。多くの国内材料メーカーが、多様な用途に向けて多様な材料を供給している。材料を見つめ直すことで、これまで知られていなかった新たな可能性が見えてくるかもしれない。(木崎健太郎、池松由香、高田憲一、荻原博之)

強さ

【1】1.2GPaでも秒速成形
ハイテン(新日本製鉄、神戸製鋼所)

 2011年10月、日産自動車が1.2GPa級のハイテン(高張力鋼板)を2013年に発売する新型車に採用すると発表した。センターピラー・レインフォース、サイドルーフレール、フロントルーフレールといった、複雑な加工を伴う部位であり、これは世界で初めてという(図1)。車体全体で最大4%程度の軽量化を見込んでいる。日産自動車が新日本製鉄、神戸製鋼所とそれぞれ共同で開発した。

 ハイテンは強度を上げると加工性が下がる(延性が減る)ため、普通は比較的単純な形状で複雑な加工を伴わない部位に使う。神戸製鋼所はバンパレインフォースやドアガードバー向けに、以前から980MPa級のハイテンを供給してきた。最近は、980MPa級でも加工性を高めたものを、もっと複雑な形状の部位に使うようになっているが、日産自動車はその上の1.2GPa級をこのような部位に使おうとしている。

 「単に強度を高めるだけならば、もっと高強度の鋼材も用意できる」(新日本製鉄)という。実際、タイヤのスチールコードに使われる線材は4GPaもの引っ張り強さを持つ。しかし、加工は非常に難しくなってしまう。
〔以下、日経ものづくり2012年2月号に掲載〕

図1●自動車の車体構造部材とハイテンの適用例
薄いグレーで示した所が2012年現在で980MPa級のハイテン材を用いた部位の例。日産自動車はさらに2013年から、1.2GPa級のハイテン材を濃いグレーで示した部位などに採用していく。日産自動車の資料を基に本誌作成。

電気

【16】70GHz帯域でも低誘電損失を維持
シクロオレフィンポリマ樹脂(シクロオレフィンポリマ樹脂)

 日本ゼオンが1999年に開発したシクロオレフィンポリマ(COP)樹脂「ゼオネックス/ゼオネア」が、光学以外の用途で注目を集めている(図2)。同樹脂は、透明性が高く(光線透過率が3mm厚で92%)、水による膨張が少ない(吸水率0.01%未満)ため、カメラのレンズやBlu-ray Disc(BD)レコーダのピックアップレンズなどの用途に多用されてきた。こうした光学以外の分野で今注目されているのは、COP樹脂にはあまり活用されてこなかった「隠れた特性」があるから。その代表例が高周波特性だ。

 ここ数年、携帯電話機などの電子機器は、伝送容量を増やすことなどを目的に使用周波数領域の高周波化が進んでいる。高周波化が進むと、回路内で使用する電子部品の材料が持つ高周波特性が問題となる。高周波特性の指標としては一般に、材料内での電気エネルギの損失度合いを示す誘電正接が用いられる。この誘電正接の値が、温度や周波数に関わらず小さく保てる材料へのニーズが高まっているのだ。

 COP樹脂は、この誘電正接の値が1MHzで0.0002と非常に小さい。これは、樹脂材料の中で最も高周波特性に優れるとされるフッ素樹脂と同等だ。しかもCOP樹脂は、「70GHzの高周波数領域においても誘電正接を低い値に維持でき、こうした材料はプラスチックでは類を見ない」(同社)という。70GHz帯は高度道路交通システム(ITS)の分野で活用されることが決まっており、今後、同分野でもCOP樹脂のニーズが高まると予想される。
〔以下、日経ものづくり2012年2月号に掲載〕

図2●従来の用途と新たに注目を集める用途
カメラのレンズやピックアップレンズなどに活用されてきたが、現在は電気・電子分野や医療分野での応用が進む。医療分野では、COP樹脂の耐酸・アルカリ性が着目されている。

【21】航空機エンジンを70kg軽く
チラノ繊維(宇部興産)

 宇部興産のセラミックス繊維「チラノ繊維」は、1800℃以上の耐熱性を備える上に高温でも機械的強度を失わない(図3)。この特性を生かしたセラミックス複合材料(CMC)は、航空機・宇宙分野の構造部材などに使用されてきた。しかし、コストが炭素繊維強化樹脂(CFRP)に比べても格段に高いことから、使用が限定されてきたのが実状だ。

 ところが、この情勢が今、変わりつつある。省エネルギへのニーズの高まりから、チラノ繊維の特性を生かした新たな用途が見つかり始めているのだ。

 1つは、航空機のエンジン部材の用途である。CMCを部材に使うと、高い省エネルギ効果が望めることが分かってきた。

 チラノ繊維は従来の耐熱合金に比べて質量が約1/3 で、「エンジンを70kg 軽くできる」(同社)。さらに、高温になっても燃えたり機械的強度を失ったりしないため、従来ほど冷却しなくて済む。エンジン内を高い温度に維持できることから、燃焼効率を上げられる。

 宇部興産は既に米General Electric(GE)社系の大手航空機エンジンメーカー、CFM International社にサンプル品を出荷した。採用されれば、2016年には年間100~120tの生産を目指すことになるという。
〔以下、日経ものづくり2012年2月号に掲載〕

図3●セラミックス繊維「チラノ繊維」
チタン(Ti)やジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)合金などを添加したポリカルボシラン(PCS)を溶融・紡糸し、焼成して造る。

マイページ

マイページのご利用には日経テクノロジーオンラインの会員登録が必要です。

マイページでは記事のクリッピング(ブックマーク)、登録したキーワードを含む新着記事の表示(Myキーワード)、登録した連載の新着記事表示(連載ウォッチ)が利用できます。

協力メディア&
関連サイト

  • 日経エレクトロニクス
  • 日経ものづくり
  • 日経Automotive
  • 日経デジタルヘルス
  • メガソーラービジネス
  • 明日をつむぐテクノロジー
  • 新・公民連携最前線
  • 技術者塾

Follow Us

  • Facebook
  • Twitter
  • RSS

お薦めトピック

日経テクノロジーオンラインSpecial

記事ランキング