第1部<脱安売りの実体>
高く売ることを
目的にしてはならない

価格が高いにもかかわらずユーザーに支持されている「脱安売り製品」が増えてきた。こうした製品は、単なる高級家電やデザイン家電とは異なる。重要なのは、「脱安売り」はあくまで結果であり、目的ではないということだ。

脱安売りを目的にしてはならない

 通常製品の数倍に相当する価格でありながら、ユーザーに支持され、新たな市場を作り出す──。価格競争とは無縁のいわば「脱安売り製品」が増えている。

 例えば、日本で一般的なキャニスター型掃除機は安い製品だと1万~2万円で買えるのに対し、英Dyson社のサイクロン掃除機や米iRobot社のロボット掃除機「ルンバ」は6万~8万円だ。4~5倍の価格差がある。この差は、扇風機ではもっと広がる。卓上型ではない通常の扇風機でも安いものであれば2000~3000円だが、バルミューダの「GreenFan2」は3万5000円弱、Dyson社の「エアマルチプライアー」は4万~5万円だ。実に10倍以上である。米Tivoli Audio社のラジオ「Model One」も、3万~4万円と単機能のラジオとしては相当高価だ。

 これだけの価格差があるにもかかわらず、こうした製品は売れている。ユーザーのどんな問題を解決したいかという開発者の思いが明確だからだ。その思いが形に表れたデザインも、魅力の一つになっている。

既存カテゴリには収まらない

 こうした製品は、価格の高さからよくある「高級家電」と混同されがちだが、本質は全く異なる。大手家電メーカーの製品は、通常は下位製品から上位製品までのラインアップで構成されており、上位製品が一般に高級家電と呼ばれる。たいていは下位製品になるほど機能や質感が劣るように構成されている。搭載してもコストに影響しないような機能であっても、差異化のために下位モデルに搭載しないことすらある。

 一方、脱安売り製品のラインアップは少なめであり、機能や用途の違いで分かれているだけだ。一般的な家電のラインアップに見られるグレードの差は存在しない。購入時の満足感が劣る「低価格ありきの機種」は最初から用意しないのだ。

 脱安売り製品は、デザイン性の高さから「デザイン家電」の一種とみなされることも多い。しかし、一般的なデザイン家電とはやはり根本から異なる。

『日経エレクトロニクス』2012年1月23日号より一部掲載

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第2部<開発事例に学ぶ>
変わり始めた大手メーカー
新たな製品群で市場を創造

日本の大手メーカーには「新規性」や「開発者の感性」が欠けていると思われがちだ。しかし、大手メーカーにも「脱安売り製品」と呼べるものがある。新市場を創造する力を備えたこれらの製品の開発事例を紹介する。

新市場を開拓する日本製品

 日本の大手総合家電メーカーに果たして「脱安売り製品」は開発できるのか──。第1部で見てきた脱安売り製品は、すべて専業メーカーが開発したものだ。比較的小規模の専業メーカーだからこそ、カリスマ開発者の思想が社内の隅々にまで行き届き、数少ない製品の質の向上に全力を傾けられたという面はある。一方、大手メーカーは多くの種類の製品を抱えている。開発体制も、特定の個人が中心になるというよりは、チーム全体で開発するという傾向が強い。

 消費者は日本のメーカーをどのように見ているのだろうか。それを調べるために、本誌と日経トレンディネットが2011年12月下旬に実施した「家電製品の付加価値に関するアンケート」で、「米Apple社の製品の魅力」と「日本メーカーの製品に欠けている点」を何だと考えているかを尋ねてみた。

 特徴的だったのは、日本メーカーの製品には「開発者の感性」が欠けているという意見が、デザイン性や使いやすさの欠如を指摘する声と並んで多かったことだ。言い換えれば、日本メーカーの多くの製品には、脱安売り製品に必須である「開発者の思い」があまり感じられないということだろう。

数十億円規模の市場

 この状況が、最近ようやく変わり始めている。日本メーカーの製品の中にも開発者の強い思いが感じられる製品が増えてきたのだ。

 こうした製品に共通しているのが「新しい市場を創造する力」である。半導体関連の技術者であり社会科学者としても知られる湯之上隆氏は「イノベーションは一般には『技術革新』と訳されるが、これは大きな誤りだ。正しくは『発明と市場の新結合』を指す言葉だ」と指摘する。市場を生まない“最新技術”は決してイノベーションではない。逆にいえば、市場を生み出すものこそがイノベーションなのである。

 第2部では、日本メーカーによる脱安売り製品の例として、五つの製品を取り上げる。

『日経エレクトロニクス』2012年1月23日号より一部掲載

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第3部<流通の見直し>
新しい販路の開拓で
製品の値崩れを食い止める

現在の機器メーカーにとって、家電量販店はなくてはならない存在だ。ただ、店頭での価格競争によってメーカーの収益が圧迫されているのも事実。これを食い止めるには、メーカー自身が汗をかいて新しい販路を開拓する必要がある。

売り方も変える必要がある

 製品が最終的にどのような価格で売られるかは、小売店の店頭で決まる。機器メーカーにとって最も重要な販路といえば、何といっても大手家電量販店だろう。量販店向けの出荷は全体の6~7割を占めているとみられる。メーカーは、量販店に販売を全面的に任せることで、基本的には在庫リスクを負わなくて済む。価格が流通段階で決まるというのは、ある意味、自由主義経済のあるべき姿だといえる。

 しかし、これだと製品の値崩れはどうしても避けられない。特に、昨今の量販店は流通コストが低いインターネット通販との価格競争を強いられており、値下げ圧力は強い。値崩れが起これば、メーカーの収益を圧迫する。極端な場合には「売れば売るほど赤字」という事態になりかねない。値崩れが常態化すると、製品のブランドも毀損されてしまう。

『日経エレクトロニクス』2012年1月23日号より一部掲載

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