2012年1~4月号でお届けする「国内技術が育つ『仮想量試』」では、グローバル展開の本格化と両立する形で国内の生産技術を強化するため、これまでカイゼンなどで使われた手法や理論を体系付けるともに、それに沿った具体的なアプローチとして「仮想量試」を提言します。

生産は海外でもノウハウは日本に残す

 生産準備領域におけるエンジニアリング業務、中でも工程計画には、ものづくりの在り方に関わる本質的な問題が幾つかある。そのために、以下に述べるような現象が引き起こされている。

 1つは、営業的機会損失。つまり売れるはずなのに売ることができない状況は、今日の製造業における大きな経営課題である。まずは、この点について、生産技術者の視点から捉え直してみたい。

初期流動で能力低下の理由

 競争がグローバル化し、製品開発力が拮抗する中では、技術レベルや企画レベルが高い製品であっても、量産製品が販売競争力を維持できるのは発売開始後間もなくの限られた期間である。しかし、この期間は、量産開始直後の初期流動期間に他ならない。

 初期流動期間には多くの不具合が発生し、企画通りの台数を生産できないことに生産技術者は悩まされる。かといって、残業でカバーできる範囲は限られている。

 図に示すように、製品企画段階での生産能力と、量産時点での生産能力の間には相応のギャップが存在するのが一般的だ。企画段階から生産準備を進めるに従って、実現可能な生産能力は低下し、量産開始時点では企画当初の生産能力を得ることができない。

 それでは、なぜ初期流動期間において生産能力の低下が起こるのか。それは、生産準備プロセスにおけるエンジニアリング・ロスが影響するためである。

〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕

図●エンジニアリング・ギャップによる能力低下
製品企画段階と量産時点とでは、生産能力の間にギャップが生じる。

中村昌弘(なかむら・まさひろ)
レクサー・リサーチ 代表取締役社長
大阪大学大学院工学研究科生産科学専攻博士課程修了、工学博士。小松製作所生産技術研究所で、知能化ロボットや空間理解などの技術研究開発・製品化に携った後、出身地の鳥取県でレクサー・リサーチを設立。ヒトの認知、状況理解や創造活動を支援・加速する観点で対話型バーチャル・リアリティ技術やヒューマン・インタフェース技術の研究開発を手掛け、さらに仮想量試システム「GP4」シリーズを開発した。