「11万2735ルピー」という低価格が、世界の製造業に衝撃を与えた。インドの自動車メーカーTataMotors社が2009年7月に同国で発売した小型自動車「Nano」のことである(図)。最も廉価なベースモデルである「Standard」の販売価格がそれだったのだ。
当時の為替レート(1ルピー2円換算)で22万5470円、2011年12月の為替レート(1ルピー=1.7円換算)では19万1650円である。日本メーカーにとっては、信じられないほどの「激安価格」だろう。
見方が180度転換
Nanoはもともと10万ルピーを目指して開発されたクルマだ。2008年1月にインドで開かれたモーターショー「AUTO EXPO 2008」において発表されたが、当時の日本メーカーの大半の反応は「限られた地域の限定的な車種であり、技術的にも見るべきところはない」というものだった。ある日本の自動車メーカーの役員は、Nanoについて「あの価格では造れない。とても当社の品質基準を満たすことはできないからだ」と記者会見でコメントしていた。ビジネス的にも、車両価格が安すぎて事業性が見込めないと判断していたようだ。
だが、今の日本メーカーがインド市場を見る目は、当時とは大きく変わっている。新興国市場で売れる製品を造らなければ、企業としての将来がないという危機感を、多くの日本メーカーが覚えるようになったからだ。そして、新興国の中でも経済の規模や成長の速さから、今後10年で最も有望視されているのがインドなのである。
〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕
東京大学 特任研究員