ステップアップは、技術者や管理者が基礎力を養ったり新たな視点を導入したりするのに役立つコラムです。2012年3月号までは「渋滞学・西成教授の数学で闘え」をお届けします。同コラムでは、技術の現場で発生する課題を、技術者が自ら数学を用いて解決する方法を学べます。

 前回(2011年12月号)から、本質を捉えればものづくりの現場で非常に使える「テイラー展開」について学んでいます。皆さんに伝授した西成流テイラー展開の定義、覚えていますか?「 どんな複雑な曲線も、小さな一部分を切り出して拡大すれば1次関数あるいは2次関数で近似できる」というもの。複雑な記号が並ぶ公式を学生時代に習った人もいると思いますが、このコラムをお読みいただいている皆さんは忘れてしまっても大丈夫っ(笑)。私の経験から言うと、テイラー展開は1次関数と2次関数が使えれば十分に足ります。なので、公式に頼らなくても、答えをいつでも導き出すことができるんです。

 答えをいつでも導き出すコツは、グラフ上の曲線を小さく区切り、区切った部分をよ~く見て、直線か放物線を当てはめていくアプローチを取ること。y=sinxx=0付近なら、直線(yx)を当てはめてみます。cosxx=0付近なら、放物線になっているので2次関数(y=ax2+1)を当てはめてみるのです。cosxの場合は微分すると簡単。y=ax2+1とy=cosxをそれぞれ微分し、イコールで結べば2ax=-xとなって、aは-1/2と解けます。ただし、1点だけご注意を! これが成り立つのはxが小さい場合だけです。

〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕

西成活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。1995年に東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程を修了後、山形大学工学部機械システム工学科、龍谷大学理工学部数理情報学科、独University of Cologneの理論物理学研究所を経て、2005年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻に移り、2009年から現職。著書に『渋滞学』『無駄学』(共に新潮選書)など。